ホリショウのあれこれ文筆庫

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第833話 昭和新山

序文・私有地

                               堀口尚次

 

 昭和新山は、北海道有珠(うす)郡壮瞥(そうべつ)町にある火山。または壮瞥町の地名。支笏洞爺(しこつとうや)国立公園内にあり、国の特別天然記念物に指定されている。また、有珠山とともに日本の地質百選に選定され、周辺地域が洞爺湖有珠山ジオパークとして「日本ジオパーク」「世界ジオパーク」に認定されている。

 昭和19年に始まった噴火活動で隆起した。当時は太平洋戦争下であったが、壮瞥郵便局長だった三松正夫が観測記録〈ミマツダイヤギラム〉を残した。昭和新山は私有地で、三松正夫の孫娘と結婚した三松正夫記念館館長の三松三朗が2022年時点の所有者である。尚、昭和新山命名者は日本の地球物理学の先駆者である田中舘愛橘(たなかだてあいきつ)の養子、田中舘秀三である。

 有珠山とともに気象庁による常時観測火山に指定されている。山への立ち入りは禁止されており、特別な許可がなければ入山することができない。

 昭和新山昭和18年12月から昭和20年9月までの2年間に17回の活発な火山活動を見せた溶岩ドームである。当時は第二次世界大戦の最中であり、世間の動揺を抑えるために噴火の事実は伏せられ、公的な観測を行うことができなかった。そのような状況下で、地元の郵便局長であった三松正夫は、新山が成長していく詳細な観察記録を作成し、後に「ミマツダイヤグラム」と命名され貴重な資料として評価された。火山の形成過程を人類が詳細に記録した唯一の例である。

 また、三松はこの世界的に貴重な火山の保護と家や農場を失った住民の生活の支援のために、山になってしまった土地を買い取った。そのため昭和新山は三松家の私有地であり、ニュージーランドホワイト島等と同じく世界でも珍しい私有地にある火山となっている。昭和26年国の天然記念物に指定され、昭和32年には特別天然記念物に指定された。

 山麓には昭和63年4月開館の三松正夫記念館があり、三松による観測記録の資料が展示されている。館長の三松三朗は大学在学中、正夫の研究活動に感銘を受けて面会を求め、後にその孫娘と結婚した。記念館は2021年の日本火山学会普及啓発賞を受賞した。