ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1034話 謎の多い「滝川一益」

序文・織田氏の宿老

                               堀口尚次

 

 滝川一益(かずます)は、戦国時代から安土桃山時代にかけての武将、大名。織田氏の宿老であり、主君・織田信長に従い、天下統一に貢献した。

 父は近江国甲賀郡の国人・滝川一勝もしくは滝川資清(すけきよ)といわれているが、どのような人物であったかは定説を見ない。また、兄として高安範勝が挙げられることもあるが、一族〈父の従兄弟〉とする系譜もある。また、池田恒興と同族〈従兄弟〉とされる場合もある。更に中村一氏(かずうじ)〈豊臣政権三老中の一人〉は甲賀二十一家の一つ・滝氏の出身ともいわれ一益の同族とする説もある。また、忍者であったという説もあるが、これも明確な根拠があるものではない甲賀郡に対する文書で「大原」同名中の「滝川氏」として動いているものがある。

 大永5年に生まれたとされるが、尾張国織田信長に仕えるまでの半生は不明である。父が甲賀出身であるとする説の立場からは、若き頃は近江国の六角氏に仕えていたとされることがある。『寛永諸家系図伝』には「幼年より鉄砲に長す。河州〈河内国〉にをひて一族高安某を殺し、去て他邦にゆき、勇名をあらはす」とあり、鉄砲の腕前により織田家に仕官したとされている。後年に水戸藩の佐々宗淳(むねきよ)〈僧・儒学者〉から織田長清に送られた書状には、「滝川家はそれなりに由緒ある家だったが、一益は博打を好んで不行跡を重ね、一族に追放され、尾張津島の知人のところに身を寄せた」と書かれている。

 一益が信長の死を知ったのは事変から5日後の6月7日であった。6月10日、一益重臣の反対を押し切って、上州の諸将を集め信長父子兇変(きょうへん)を告げ、「我等は上方にはせ帰り織田信雄、信孝両公を守り、光秀と一戦して先君の重恩に報いねばならぬ。この機に乗じ一益の首をとって北条に降る手土産にしようと思う者は遠慮なく戦いを仕かけるがよい。それがしは北条勢と決戦を交え、利不利にかかわらず上方に向かうつもりだ」と述べたと伝わる。

 清洲会議後、信長の嫡孫・三法師が織田氏の後継者となったが、その中で一益が伊勢に帰還した。関東を失ったために立場が弱くなった一益は今後の汚名返上のために織田家の遺領の再配分を求めたが、羽柴秀吉清洲会議に参加した重臣は会議の決定を覆しかねないこの要求を拒んだ。その後、信長の三男・織田信孝は会議の決定に不満を持っていた為、三法師を擁立した羽柴秀吉と、信孝を後援する柴田勝家の対立に発展した。天正11年正月元旦、一益は勝家に与して秀吉との戦端を開いた一益は北伊勢の諸城を攻略、攻め寄せた秀吉方の大軍7万近くを相手に3月まで粘り、柴田勝家の南進後も織田信雄蒲生氏郷(がもううじさと)の兵2万近くの兵を長島城に釘付けにしたが、勝家が賤ケ岳の戦いで敗れ、4月23日に北ノ庄において自害し、4月29日には信孝も自害し孤立してしまう。残った一益は更に長島城で籠城し孤軍奮闘したが、7月には降伏。これにより一益は所領を全て没収され、京都妙心寺で剃髪、朝山日乗(にちじょう)〈僧〉の絵を秀吉に進上し、丹羽長秀を頼り越前にて蟄居した。その後、伊勢の所領は信長の次男・織田信雄のものとなった。

 天正12年、今度は織田信雄徳川家康と共に反秀吉の兵を挙げた〈小牧・長久手の戦い〉。一益は秀吉に隠居から呼び戻され、今回は秀吉方となった。この戦いで一益は、信雄方の九鬼嘉隆と前田長定を調略し、6月16日に伊勢白子浦から蟹江浦に3千人の兵を揚陸。先に没収された蟹江城から信雄方の佐久間信辰を追放し、更に、下市場城、前田城を占拠した。当時、蟹江城は海に面しており、織田信雄の長島城と徳川家康の清州城の中間に位置する重要拠点であった。しかし、山口重政の守る大野城の攻略には失敗し、家康と信雄の主力に下市場城、前田城を奪還され、蟹江城も包囲されてしまう。一益は、開城交渉も含め半月以上粘ったが力尽き7月3日に開城した。しかし、退去中に攻撃されて前田長定が討ち取られ、一益は命からがら船で伊勢に逃れている〈蟹江城合戦〉。

 尚、失明出家した一益が、京都の寺から領国の越前大野郡への帰途、越前の今立大滝という地に立ち寄った。ここから山を越えて大野郡へ帰る一益を、かつて信長の越前一向一揆攻めの際に滝川軍に焼き討ちされたことを恨みに思う大滝村民〈大滝神社を中心とする、平泉寺傘下の在地勢力〉が襲撃し、一益は惨殺されたと大滝の地元では伝えられている。遺体は近隣の味真野霊泉寺に葬られた。一益の鐙と伝わる品が大滝神社に伝わっているが、この話は、「信長の配下の武将で、晩年失明し、越前で一揆勢に惨殺された」という点まで前波吉継〈朝倉氏・織田氏の家臣〉の話と酷似しており、混同も推測される。