ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1040話 第六天魔王

序文・織田信長の署名

                               堀口尚次

 

 天魔とは第六天魔王波旬(はじゅん)〈より邪悪なもの〉、すなわち仏道修行を妨げている悪魔のことである。天子魔(てんしま)・他化自在天第六天魔王ともいう。また、天魔の配下の神霊のことを表す場合もある。

 第六天とは仏教における天のうち、欲界の六欲天の最高位〈下から第六位〉にある他化自在天をいう。『大智度論』巻9に「此の天は他の所化を奪いて自ら娯楽す、故に他化自在と言う。」とあり、他の者の教化を奪い取る天としている。また『起世経』巻1には「他化天の上、梵身天の下、其の中間に摩羅波旬・諸天の宮殿有り。」とあり、他化自在天と梵衆天の中間に天魔が住んでいるとする。

 また『過去現在因果経』巻3には「第六天魔王」が登場し、「自在天王」と称している。 これらを踏まえ、『仏祖統紀』巻2には「諸経に云う、魔波旬六欲の頂に在りて別に宮殿有り。今因果経すなわち自在天王を指す。是の如くなれば則ち第六天に当たる。」とあり、他化自在天天魔であると考察している。

 涅槃経においては天魔が釈迦の教えを破壊するために釈迦や比丘(僧侶)や優婆塞、聖者や阿羅漢のふりをして矛盾する教えを説く事が説かれている。

 日蓮は、第六天の魔王を、仏道修行者を法華経から遠ざけようとして現れる魔であると説いた。しかし、純粋な法華経の強信者の祈りの前には第六天の魔王も味方すると、日蓮は自筆の御書で説いている。日蓮があらわした法華経曼荼羅第六天の魔王が含まれているのは、第六天の魔王も、結局は法華経の味方となるという意味である。第六天の魔王は、仏道修行者の修行が進むと、さまざまな障りで仏道修行者の信心の邪魔をするが、それに負けず、一途に信心を貫くものにとっては、さらなる信心を重ねるきっかけとなるにすぎない。なぜなら、信心を深めることにより、過去世からの業が軽減・消滅し、さらなる信心により功徳が増すきっかけとなるからであると日蓮は説いている。現世で受ける第六天の魔王の障りも、「転重軽受〈重きを転じて軽く受く〉」で一生の間の難に収まる、とする。

私見】尚、織田信長武田信玄から挑戦状を受け取り、その返書を送る際に「第六天魔王」と署名した、という記録がある。一向宗仏道修行者〉を殲滅した信長にはふさわしい名前なのかも知れない。