ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1059話 ジェノサイド

序文・大量虐殺

                               堀口尚次

 

 ジェノサイドは、政治共同体人種民族、または宗教集団を意図的に破壊することである。ジェノサイド条約第2条によれば、政治共同体の、人種的、民族的、宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる行為のことで、集団殺害と訳される。大量虐殺という邦訳も度々メディアで使用されるが、条約のジェノサイドの定義には、被害が大量〈多数〉であることも虐殺であることも含まれていないのでミスリードである。

 genocide はギリシャ語の γένοςとラテン語 -caedes〈殺害:英語の接尾辞でcide〉の合成語であり、ユダヤポーランド人の法律家ラファエル・レムキン〈英語版〉により『占領下のヨーロッパにおける枢軸国の統治』〈1944年〉の中で、政治共同体もしくは民族集団の消滅を目的とした、大量殺人だけではない複合的な計画を表すために用いられた造語である。

 ジェノサイドの防止と処罰を規定したジェノサイド条約第2条では、ジェノサイドとは、政治共同体または、人種的、民族的、宗教的集団を、全部または一部破壊する意図をもって行われた、次のような行為のいずれをも意味すると説明される。

・集団の構成員を殺害すること。

・集団の構成員に対して重大な肉体的または精神的な害を引き起こすこと。

・全部又は一部に肉体の破壊をもたらすために意図された生活条件を集団に対して故意に課すること。

・集団内における出生を防止することを意図する措置を課すること。

・集団の児童を他の集団に強制的に移すこと。

 日本語では「集団殺害」や「大量虐殺」と訳されることが多いが、条約の犯罪要素は「身体的ジェノサイド」と「生物学的ジェノサイド」を具体化したものであり、上記の通りジェノサイドには対象の肉体的殺害が伴わない場合も含まれる。また、定義には被害が大量〈多数〉であることも虐殺であることも含まれておらず、さらには、特定の、政治共同体、人種、民族、または宗教集団を破壊する意図を伴わない場合はジェノサイドに当らない。