ホリショウのあれこれ文筆庫

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第505話 通州事件

序文・南京虐殺との関連

                               堀口尚次

 

 通州(つうしゅう)事件とは、昭和12年に中国の通州〈現:北京市通州区〉において冀東(きとう)防共自治政府〈1935年から1938年まで中国河北省に存在した政権。当時の日本側の公式見解によると、地方自治を求める民衆を背景に殷汝耕(いんじょこう)の指導により成立したとされるが、中国側からは当時から現代に至るまで日本側の特務機関の工作活動により設立された傀儡政権であると主張されており、また日本や米国にも中国側と同様の認識で傀儡政権であったとする研究がある。〉麾下(きか)〈政権直属〉の保安隊〈中国人部隊〉が、日本軍の通州守備隊・通州特務機関及び日本人居留民を襲撃・殺害した事件。通州守備隊は包囲下に置かれ、通州特務機関は壊滅し、200人以上におよぶ猟奇的な殺害、処刑が中国人部隊により行われた。通州虐殺事件とも呼ばれる。冀東政府保安隊ら中国人の軍隊は日本軍を全滅させると、日本人居留民の家を一軒残らず襲撃し、略奪・暴行・強姦などを行なった。居留民は約380人で、その大部は惨殺された。

 歴史家の秦郁彦は「南京虐殺が話題になると通州事件を持ち出して相殺しようとする人が少なくない。政治学者の田久保氏が「冀東政府の所在地だった通州などで日本人が受けた惨劇はどう考えたらいいのか」と相殺論を展開している。」と主張した。「通州事件南京大虐殺と対抗させてとりあげる向きがあるが、両者はその規模も性格もまったく違うことを認識すべきである」と主張しする者もいる。歴史学者の清水は「どんな原因にせよ民間人が戦争に巻き込まれる事など、あってはならない。そして通州事件南京事件を並列に論じても、そのどちらもが虐殺であった、ということにしかならない。」と主張した。また「日本の保守系の一部から、通州事件を利用して中国を批判する言説が出るようになった、彼らは通州事件で日本居留民を虐殺した中国人である保安隊の残虐性を強調しているが、これは戦前、日本軍や外務省、日本の主要紙による通州事件を使った反中プロパガンダと変わらない。」と主張する者もいる。

 2015年、中国がユネスコ記憶遺産に申請していた南京大虐殺資料が正式に登録された。これを受けて日本の「新しい歴史教科書をつくる会」は、通州事件資料の2017年登録を目指し申請する旨を発表した。2016年5月、民間団体「通州事件アーカイブズ設立基金」が、中華人民共和国によるチベット弾圧の資料と併せて申請をおこなったが、2017年10月に却下された。