序文・前方後円墳
堀口尚次
天皇陵は、天皇の墓。皇室典範第27条により、天皇・皇后・皇太后・太皇太后を葬る所を「陵」、その他の皇太子や親王などの皇族を葬る所を「墓」と定められている。同附則第3項で、当時治定されていた陵及び墓は、第27条の陵及び墓とされた。そのため、実際には天皇・皇后・皇太后・太皇太后の陵の他にも、「尊称天皇」・「追尊天皇」・「尊称皇后」の墓所や、いわゆる「神代三代」の墓所、日本武尊の白鳥伝承に基づく白鳥陵、飯豊青皇女の墓所は「陵」と称されている。
これら陵墓は現在も皇室及び宮内庁による祭祀が行われており、研究者などが自由に立ち入って考古学的調査をすることができない。調査には宮内庁の認可を要するが、認可されて調査が実際に行われた例は数えるほどしかない。しかしながら調査の許可を求める考古学会の要望もあり、近年は地元自治体などとの合同調査を認めたり、修復のための調査に一部研究者の立ち入りを認めるケースも出てきている。
諸外国の陵墓と比較して天皇陵の調査が進まないのは、天皇陵は現在も続いている王朝の陵墓だからだとの指摘がある。世界遺産の始皇帝陵やエジプトのピラミッドの被葬者の王朝は現在は途絶えているのに対し、日本の皇室は建国から一貫して続いているものとされており〈万世一系〉、たとえ古代の天皇陵であっても現皇室の祖先の陵墓で有ることから、それを調査すること自体が非常に抵抗の大きいものだとの主張がある。
宮内庁は2018年10月15日、仁徳天皇陵の一部について発掘調査を実施すると発表した。宮内庁の担当者は「陵墓は長年、地元の力で守られてきた。より一層適切な管理をしていくため、地域の協力が欠かせないと判断した」としている。2019年7月6日、仁徳天皇陵を含めた「百舌鳥・古市古墳群」が、宮内庁が治定している天皇陵の中で初めて、世界遺産に登録された。
宮内庁は、「皇室の陵墓はあくまでも祭祀の対象であるため、一般の古墳や墓所とは性格が異なる」として、天皇陵を始めとする陵墓の治定見直しならびに指定の変更を拒絶している。