ホリショウのあれこれ文筆庫

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第585話 やん衆

序文・ニシン漁の季節労働者

                               堀口尚次

 

 テレビのBS番組で、高倉健の「網走番外地・さいはての流れ者」を観た。その中で聞きなれない言葉があった。調べてみると漁師のことを「やん衆〈やんしゅ〉」と呼称していることがわかった。北海道でのニシン漁の季節労働者をこう呼ぶようだ。「ヤン」の語は、 アイヌ語 で 北海道島 を意味する「ヤウン・モシリ」に由来するとも、網曳(あび)き漁を意味する「ヤーシ」に由来する 。

 季節労働とは、季節的な要因の影響をうける産業従事者が、本来の産業に従事することができない期間に収入を得るためにする労働である。日本では冬季に積雪を迎える地域において、積雪などで事業ができないために就労する労働〈出稼ぎ〉のことを示す。また、これらの要因から就労する者を季節労働者季節労働者を雇用することを季節雇用といい、季節雇用とは逆に1年を通した雇用を通年雇用という。

 1年のうちある季節にのみ操業し、別のある季節には操業ができないような産業を季節性産業という。亜寒帯や寒帯の地域では冬季に低温が続き、降雪や積雪があることにより、土木・建築関係業務や農業など第一次産業の多くが事業を行うことができない。これらが典型的な季節性産業である。他に観光業にも季節性がある。こうした普段季節性産業に従事する者は、季節的な要因から一年を通じて産業に従事できない期間があり、収入を得るために季節労働を行う。

 明治時代から昭和初期には「季節労働」「出稼」の表記もみえるが、近年の日本の公文書では、「出かせぎ」を用いている。近代以降、多くの日系人中南米に移民し、その子孫が後に経済発展した日本へ出稼ぎに向かったことから、中南米でも「デカセギ」と表現されることがある。

 日本国内における出稼ぎは、第二次世界大戦前は農村や山村などにおいて製炭などに従事する労働力を他村から受け入れることがあった。戦後の高度成長期〈1970年代まで〉に顕著となり、主に北海道・東北地方や北陸・信越地方などの寒冷地方の農民が、冬季などの農閑期に首都圏をはじめとする都市部の建設現場などに働き口を求めて出稼ぎに行くことが多かった。

 新潟県出身の田中角栄が首相になると、「出稼ぎをしなくても雪国で暮らせるようにしよう」と日本列島改造論を唱え、全国で公共事業が増えた。

※やん衆どすこほい祭り