ホリショウのあれこれ文筆庫

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第771話 「大利根無情」の平手造酒

序文・落ちぶれ果てゝも平手は武士じゃ

                               堀口尚次

 

 「大利根無情」は、昭和34年6月に発売された三波春夫のシングル。天保15年8月6日、下総国笹川〈現在の千葉県香取郡東庄町笹川〉の大利根河原で起きた「大利根河原の決闘」で、飯岡助五郎との決闘に笹川繁蔵方の助っ人として参加し、ただ一人闘死した平手造酒(みき)を題材とした楽曲である。

 本楽曲が発売された年のテイチクの歌謡曲〈流行歌〉レコード売上で1位を記録した。累計売上は170万枚。

 平手造酒は、講談や浪曲などで広く親しまれた『天保水滸伝』に登場する剣客。実名は平田三亀(みき)。生い立ちは詳らかではないが、讃岐高松家で小納戸役などを務めた平田伴五の子とする説がある。剣術修業として諸国を遍歴、天保5年以来、下総国に滞在。天保15年8月6日、飯岡助五郎一家と笹川繁蔵一家の間で繰り広げられた「大利根河原の決闘」に笹川方の用心棒として参戦、全身に11か所の刀傷を負って闘死した。

 嘉永3年、この史実を元にした実録体小説『天保水滸伝』が著されると、三亀は無念流の極意を究めながら酒乱で剣の道を踏み外し、博徒の用心棒に身を窶して最後は喧嘩場で命を落とす奥州の浪士・平手造酒として描かれた。以後、この人物像は流派や生国を変えながらも講談や浪曲を通して拡散され、昭和以降は鶴田浩二天知茂が映画で演ずるなど、時代劇ではおなじみのキャラクターとなるまでになった。

※「大利根無情」の歌詞のセリフ部分

佐原囃子が聴えてくらあ、想い出すなア…、

御玉ヶ池の千葉道場か、うふ…。

平手造酒も、今じゃやくざの用心棒、

人生裏街道の枯落葉か。

止めて下さるな 妙心殿。
落ちぶれ果てゝも 平手は武士じゃ。
男の散りぎわは 知って居りもうす。
行かねばならぬ 行かねばならぬのだ。