ホリショウのあれこれ文筆庫

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第777話 将棋からきた「成金」

序文・なぜ「ネガティブ・イメージ」になったのか?

                               堀口尚次

 

 成金(なりきん)とは、将棋において低位の駒が金将に成駒(なりごま)することになぞらえ、急激に富裕になった人〈ヌーヴォーリシュ〉を表す。日本語で、また成り上がり者、出来星(できぼし)とも呼される。

 玉将〈王将〉・金将以外の駒が敵陣〈1段目〜3段目〉を進入させるとき、その駒が「成る」ことを選択できる〈成駒〉。特に、歩兵(ふひょう)、香車(きょうしゃ)、桂馬(けいま)、銀将が成った場合は、以降、金将と同じ動きとなる。駒が成ったことを明らかにするため、その駒を裏返すが、この4種の駒の裏側に書かれている文字はすべて「金」〈を崩した文字〉であり、たとえば歩の裏側の字はひらがなの「と」に見えるが、これも「金」の字を崩したものである〈この「と」に見える文字は「今」の崩し字という説もある〉。歩兵・香車・桂馬・銀将が成ったものを、それぞれ「と金(きん)」・「成香(なりきょう)」、「成桂(なりけい)」、「成銀(なりぎん)」と呼ぶ。これらの金将と同じ動きができるようになった駒、特にと金を俗に「成金」ということがあるが、金将は成ることはできず、金将の裏には何も書かれていないので、「成金」という言葉は正式な将棋用語ではない。特に「と金」は金同様の動きをするにも関わらず奪取されても価値は歩のままであり、相手に取っては非常に脅威の存在となる。

 上記の意味より転じて:①社会変動の最中〈特に戦争〉で急激に裕福になった階層〈すなわちヌーヴォーリシュ〉②庶民や貧困層が、急に莫大な金銭や財産を持つ富裕層に変化する現象〈すなわち成り上がり者、アップスタート〉を指す。この意味での用法は江戸時代後期に始まったようであるが、明治維新後には、第一次世界大戦による大戦景気によって、急に富裕層に転じた者を指して使うようになり、一般に広まった。

 一方で、事業や技術が成功して裕福になった者や、社会的地位が高い仕事の従業者、いわゆる「勝ち組」も憎恨の的として「成金」と呼ばれることもある。

金持ちになった要因を頭に付けて、炭鉱成金、船成金、土地成金、石油成金、事故成金、宝くじ成金、戦争成金、IT成金などと呼ぶこともあり、建てた家を同様に鰊(にしん)御殿、小豆御殿などとも言う。