ホリショウのあれこれ文筆庫

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第228話 メディアのやらせ問題

序文・過度の演出がやらせを生んだ背景

                               堀口尚次

 

 やらせとは、事実関係に作為・捏造をしておきながらそれを隠匿し、作為などを行っていない事実そのままであると(またはあるかのように)見せる・称することを言う。片仮名で「ヤラセ」とも表記される。

 新聞やテレビなどメディアにおいて行われるやらせを指すことが多い。やらせには倫理的な問題のみならず犯罪行為にまでエスカレートすることが多いため、やらせを行うことで、その放送局の社会的な評価は著しく下がる傾向にある。スポンサーからの信用もなくなり、結果的に番組自体の終了につながる。

 全てのやらせに共通するのは打ち合わせするなど事実関係に手を加えておきながら、それを読者や視聴者などの受け手から隠蔽することである。やらせの方法は様々あるが、制作者の意に沿う結果を生じさせるための人(事前の打ち合せを受けた素人や番組スタッフ、および芸能人や評論家)を用意して演技させる手段が多い。このような人や物を用意することは「仕込み」ともいわれ、ほぼ同義である。しかし一説によると「仕込み」は下記やらせ事件をきっかけに、それまでの「やらせ」を言いかえる詭弁として業界内で定着したという。

 報道・ドキュメンタリーのように、取材対象が事実であることが前提となっている分野において、事実を歪曲するほどの過剰な演出、つまりやらせを行った場合、報道の対象が存在しないにもかかわらずこれを作り出す「捏造」とも本質において変わりがなく、倫理的に非常に大きな問題となる。

 有名な事件として、1992年にNHK『NHKスペシャル』にて放送されたドキュメンタリー番組『奥ヒマラヤ禁断の王国・ムスタン』のやらせ問題がある。朝日新聞のスクープによって大きな社会問題となったこの事件ではヒマラヤの気候の厳しさを過剰に表現した点、スタッフに高山病にかかった演技をさせた点、少年僧の馬が死んだことにした点、流砂や落石を人為的におこした点が主に問題とされた。皮肉にも同番組は高い視聴率をマークし、評判も良かった。ニュース・報道・ドキュメンタリー番組において高い評判を得ていたNHKの信用を大きく傷つけた不祥事となった。この事件が発覚するとメディアは一斉にこれを非難したが、その前年には朝日新聞においてスクープのために記者自身の手で珊瑚に落書きしたという不祥事が発生しており、またテレビ各局でもその直前直後に「やらせ」が発覚している。メディアが「やらせ」問題を追及された場合、「過度の演出であった」と弁明することが多い。そうしたことから逆に、行き過ぎた演出が視聴者からやらせと捉えられることもある。また、昨今では「行き過ぎた演出」は「やらせ」と同義的に捉えられる。

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