ホリショウのあれこれ文筆庫

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第773話 風が吹けば桶屋が儲かる

序文・世の中の繋がり

                               堀口尚次

 

 風が吹けば桶屋が儲かるとは、日本語のことわざで、ある事象の発生により、一見すると全く関係がないと思われる場所・物事に影響が及ぶことの喩えである。また現代では、その論証に用いられる例が突飛であるゆえに、「可能性の低い因果関係を無理矢理つなげてできたこじつけの理論・言いぐさ」を指すことがある。「大風が吹けば桶屋が喜ぶ」などの異形がある。

 江戸時代の町人文学、浮世草子の気質物(かたぎもの)が初出とされる。明和5年開版の無跡散人著『世間学者気質』巻三「極楽の道法より生涯の道法は天元の一心」において、三郎衛門が金の工面を思案するくだりの一部が以下である。

 『とかく今の世では有ふれた事ではゆかぬ。今日の大風で土ほこりが立ちて人の目の中へ入れば、世間にめくらが大ぶん出来る。そこで三味線がよふうれる。そうすると猫の皮がたんといるによって世界中の猫が大分へる。そふなれば鼠があばれ出すによって、おのづから箱の類をかぢりおる。爰(ここ)で箱屋をしたらば大分よかりそふなものじゃと思案は仕だしても、是(これ)も元手がなふては埒(らち)明(あか)ず』

 関連内容として、(1)大風が吹けば土埃が立ち、盲人などの眼病疾患者が増加する。(2)盲人などが三味線を生業とし、演奏方法を指導したり、門(かど)付(つけ)〈門口に立ち行い金品を受け取る〉で三味線を演奏するので、三味線の需要が増える。(3)三味線製造に猫の皮が欠かせないため、猫が多数減り、鼠が増加する。これら鼠は箱の類〈など〉をかじることから、の需要も増加して桶屋が儲かるだろう。が挙げられている。

 ここでは「風が吹けば箱屋が儲かる」などの成句の形はみえず、「桶」のかわりに「箱の類」となっている。また、『東海道中膝栗毛』二編下〈享和3年〉では、「箱」になっている。

 江戸時代には、江戸並びに地方の城下では、桶屋町や指物町などの職人町が発達していた。庶民の手桶や商品製造用の商家桶〈味噌桶など〉を生業とした「桶屋」があり、また木を組んで木箱を組み立てた上で、その上に精巧な細工を施す「指物屋」などがあった。