序文・考えるほど頭が痛くなる
堀口尚次
パラドックスとは、正しそうに見える前提と、妥当に見える推論から受け入れがたい結論が得られる事を指す言葉である。逆説、背理、逆理とも言われる。
「妥当に思える推論」は狭義には〈とりわけ数学分野においては〉形式的妥当性をもった推論、つまり演繹(えんえき)〈一般的・普遍的な前提から、より個別的・特殊的な結論を得る論理的推理の方法〉のみに限られる。しかし一般的にはより広く帰納(きのう)〈個別的・特殊的な事例から一般的・普遍的な規則・法則を見出そうとする論理的推論の方法〉などを含んだ様々な推論が利用される。また「受け入れがたい結論」は、「論理的な矛盾」と「直感的には受け入れがたいが、別に矛盾はしていないもの」に分けることができる。狭義には前者の場合のみをパラドックスと言い、広義には後者もパラドックスという。こうした区分は主に数学分野を中心に行われるもので、結論が直感的に受け入れやすいかどうかではなく、公理系の無矛盾性をより重視する所から来る区分である。
【パラドックスの例】
①『全能の逆説』 全能者は自分が持ち上げることができないほど重い石を作る事ができるか?
②『例外のパラドックス』 「例外のない規則はない」という規則に例外はあるか。
③『「私は嘘つきである」 は本当か?』
④『床屋のパラドックス』 ある村の床屋は自分で髭を剃らない村人全員の髭だけを剃ることになっている。それではこの床屋自身の髭は誰が剃るのか。
⑤『料金紛失の疑似パラドックスの構造を持つ数学パズル』
ある3人が食堂で食事をし、1人1000円ずつ合計3000円を払った。しかし店主は料金をサービスし、給士に対し3人に500円を返すように命じた。しかし給仕は、3人に対して500円を返したのでは均等に分けることができないため、その500円から200円をこっそり盗んで自分のふところに入れ、均等に分けることのできる300円だけ客に返した。
300円は3人が均等分けし、それぞれ支払った金額は1000円から100円差し引いた900円になり、合計すると2700円になる。それに給仕が盗んだ200円を加えると、2700 + 200 = 2900円となるが、差額の100円はどこにいったのだろうか?