ホリショウのあれこれ文筆庫

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第263話 壬生義士伝の再考

序文・義と愛と友情

                               堀口尚次

 

 『壬生(みぶ)義士伝』は、浅田次郎による日本の歴史小説。南部地方盛岡藩の脱藩浪士で新選組隊士の吉村貫一郎を題材とした時代小説である。足軽身分で貧困ゆえ脱藩して新選組に入隊。守銭奴(しゅせんど)〈お金に強い執着心を持つ人〉や出稼ぎ浪人などと呼ばれながらも近藤勇土方歳三斎藤一沖田総司など新選組の名だたる隊士が一目おいた田舎侍・吉村貫一郎が繰り広げる人としての義、家族への愛、友との友情という人間ドラマを描いた作品で、2000年に第13回柴田錬三郎賞を受賞した。

 新選組の前身である「浪士組」は、京都の壬生村の豪士宅や寺などに分散して宿泊し仮の屯所とした。

 初代浪士組取締役の清河八郎の裏切りが発覚し、清河らが率いる浪士組は京都を出立して江戸へ向かった。清河に反対した芹沢・近藤らは京都守護職を務めていた会津藩預かりとなってそのまま京都に残り、壬生浪士組を名乗る。

 主人公の吉村貫一郎は、実在の人物だが、小説ではかなり創作されて描かれている。新選組隊士であることは事実のようであるが、盛岡藩の脱藩や妻子の事実は確認できないようだ。

 小説では、主人公の「義」に対する思いが強烈に描かれている。「義」とは、儒教における五常〈仁・義・礼・智・信〉の一つ。人のおこないが道徳・倫理にかなっていることで、封建社会では主君への忠義が特に重んじられた。新選組は、薩長を中心とする倒幕勢力に対して、戦うことこそが、徳川幕府への「義」と捉え、戦い続けたのだ。

 「家族への愛」では、吉村が故郷に残した妻子の為に、守銭奴と呼ばれ軽蔑されながらも、自らの贅沢は慎み、家族への送金の為に徹底して行った行為だった。脱藩の罪を犯した家族なので、世間の目もあり人里はなれた親戚の納屋で貧しく暮らす妻子であり、余計にお金の送金だけが愛情の表現になった。

 「友との友情」では、小説では幼馴染(おさななじみ)の藩士が、盛岡藩の上役の子息であったことから、歴然とした身分の垣根が出来ていたが、お互いを慮(おもんぱか)る姿勢は生涯続いた。ただ、この件は史実にはなく浅田の創作と想われる。

 新選組の生い立ちから終焉までを「壬生義士」である吉村貫一郎を通じて描いた感動の小説だった。映画やテレビドラマにもなっている。

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