ホリショウのあれこれ文筆庫

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第801話 牛に引かれて善光寺参り

序文・一生に一度は参れ

                               堀口尚次

 

 むかし、善光寺から東に十里の村里に欲張りで信心薄いおばあさんが住んでいた。ある日、川で布をさらしていると、どこからか一頭の牛が現れ、角にその布を引っかけて持っていってしまった。布を取り戻したいおばあさんは、牛の後を一生懸命追いかけ、ついに長野の善光寺まで辿りついた。ところが牛の姿を見失い、日も暮れて途方にくれたおばあさんは、仕方なく善光寺の本堂で夜を明かすことにした。するとその夜、おばあさんの夢枕に如来様が立ち、不信心をお諭しになった。目覚めたおばあさんは、今までの行いを悔いて信心深くなり、たびたび善光寺に参拝に訪れるようになった。そして、ついに極楽往生を遂げた。

 長野県小諸市にある布引観音〈釈尊寺〉を発祥地とする伝説が有名だが、小諸から善光寺までは約60㎞もあるので、これには疑問が残る。一方、明治30年に出版された『善光寺独案内』には、別のパターンが記されている。こちらは「戦国時代のこと」とされ、老婆ではなく「善光寺の一里ほど南に住むスミという女」になっており、改心したスミは尼となり、かるかや山西光寺の蓮了上人の弟子として、観音様にお仕えして一生を遂げたという。

 善光寺は、長野県長野市元善町にある無宗派の単立仏教寺院。住職は「大勧進貫主」と「大本願上人」の両名が務める。本尊は日本最古と伝わる一光三尊阿弥陀如来善光寺如来〉で、絶対秘仏である〈開帳は前立本尊で行う〉。

 本尊の善光寺如来は由緒ある像として権威の象徴とも見なされ、戦国時代には大名がこぞって自領〈本拠地〉に善光寺如来遷座(せんざ)させ、各地を転々とした。

昔から多くの人々が日本中から善光寺を目指して参詣し、「一生に一度は参れ善光寺」と言われた。

 特徴として、日本において仏教が諸宗派に分かれる以前からの寺院であることから、宗派の別なく宿願が可能な霊場と位置づけられている。「戒壇めぐり」と称されるものがあり、本堂の地下にある暗い回廊を手探りで進むことで有名。暗い回廊の奥にある、御本尊とつながっている錠前に触れることで、極楽往生のお約束をいただくことができるとされている。