ホリショウのあれこれ文筆庫

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第803話 辻井喬の幻影

序文・もう一人の自分

                               堀口尚次

 

 堤清二昭和2年 - 平成25年〉は、日本の実業家、小説家、詩人。筆名は辻井喬(たかし)。学位は博士〈経済学〉。日本芸術院会員、財団法人セゾン文化財団理事長、社団法人日本文藝家協会副理事長、社団法人日本ペンクラブ理事、『歴程』同人、憲法再生フォーラム共同代表、日本中国文化交流協会会長。西武鉄道取締役、京浜急行電鉄社外取締役、西武流通グループ〈後のセゾングループ〉代表などを歴任した。異母弟は西武鉄道グループ元オーナーの堤義明

 昭和2年、西部グループの創業者堤康次郎衆議院議長〉と、康次郎の妾〈のちに本妻〉・青山操の間に生まれる。青山は当時康次郎と内縁関係にあったが〈のち入籍〉、康次郎は5人の女性との間に5男2女を持つ。このことは父への反抗につながり、日本共産党入党や文学への傾倒へのきっかけとなっていく。また「父との確執と、父への理解」は、「小説家・辻井喬」を貫くテーマともなっている。

 国立学園小学校、東京府立第十中学校〈現・東京都立西高等学校〉を経て旧制成城高等学校〈現・成城大学〉に進学すると、寺内大吉〈作家・僧侶〉に兄事(けいじ)し、後に「近代説話」の同人となる。東京大学経済学部入学直後、同級生だった氏家齊一郎〈実業家〉などから勧誘を受け日本共産党に入党横瀬郁夫ペンネームで積極的な活動を行っていた。戦時は学徒動員で厚木飛行場の建設作業に従事した後、帝都防衛隊に編入され、四谷消防署の参謀となり、東京大空襲での消化活動を行う。

 昭和25年、内外の混乱により共産党が所感派・国際派へと分裂する中、国際派の東大細胞〈政治団体の基本組織〉に属し、党中央から除名される。この頃、自ら父に勘当を願い出ているが、それは康次郎に対する清二の「絶縁宣言」というべきものだった

 以下は「流通の起業家たち」より抜粋。『学生運動で現実を否定した彼は…自分の精神を充実させ、感性がほとばしる別の世界を見つけ出し、現実ともう一つの現実のなかで生きている。彼は、西武グループ総帥であると同時に、夜は詩作に没頭する辻井喬に変身する。「夜泣きする 怯えて 昼間泣くとウソになるから 俺は夢の中で涙を流す」 たかが商人されど商人・堤清二