序文・個人が占有する財産
堀口尚次
多頭飼育崩壊とは、ペットの動物を多数飼育した飼い主が、無秩序な飼い方による異常繁殖の末、飼育不可能となる現象。
ペットを自宅など同一ヵ所で最初は適正頭数を飼っていたが、不妊手術など適正な措置を行わないままに無計画に飼った末、飼い主の予想を超えて異常繁殖が繰り返され過剰多頭飼育となり、経済的にも破綻して飼育放棄に近い状態になる現象が各地で起こっている。現場では、糞尿の垂れ流し、餌不足、病気、餓死、共食い、害虫・ネズミの発生、鳴き声による騒音、悪臭などが発生し、図らずも動物虐待や近隣トラブルとなっているケースも多い。
飼い主の孤独死や病気、行方不明などで問題が深刻化し、近隣住民からの悪臭などの苦情・通報により発覚するケースも多い。動物愛護団体などボランティア組織が発見したり、介入したりするケースもあるが、その後に保護先が確保できずにそのまま放置される場合もある。日本では2016年時点の最新調査で全国で約1800件の多頭飼育による苦情件数が報告されている。環境省が2頭以上の犬・猫飼育に対して複数の住民から苦情を寄せられたケースを、動物愛護担当部局がある115自治体について集計したところ、2016年度で2199件あった。飼育頭数が50以上というケースもあった。
日本においてペットは民法上、個人が占有する財産であり、日本国憲法第29条第1項の規定により財産権が保障されている。よって単に「何頭以上飼ってはいけない」等、複数頭・多頭飼育を禁止することはできない。動物の愛護及び管理に関する法律に基づき、「多数の動物の飼養又は保管に起因して周辺の生活環境が損なわれている事態が生じていると認められる場合」については、日本国憲法第29条第2項にいう「公共の福祉」に適合するように、自治体が調査し、改善を指導、勧告、命令することができる、とされているものの、「過剰多頭飼育状態である」というだけの理由をもって行政当局による取り締まりや動物の没収はできない。
環境省はパンフレットを作製・配布、複数の頭数・種類の動物を飼育する難しさを説明し、多頭飼育の注意点の周知を行っているほか、自治体も適正な動物飼養に関するガイドラインを定めている。