ホリショウのあれこれ文筆庫

歴史その他、気になった案件を綴ってみました。

第830話 乳牛の最期

序文・家畜のさだめ

                               堀口尚次

 

 乳牛あるいは乳用牛は、家畜化されたのうち、特にの出る量が多くなるように品種改良された牛のこと。日本ではホルスタインがよく知られている。

「乳を出す種類の牛」が存在するわけではなく、乳牛が乳を出すのは、ほかの哺乳類同様出産後である。よって牛乳生産のために、計画的な人工授精と出産が人為的に繰り返される

 牛乳を早く生産ラインにのせるために、子牛は産まれてすぐに母牛から離される。産まれた子牛が雌ならば乳牛として飼育されるが、雄の場合は、肉牛として飼育される。まれに子牛肉として飼育されることもある。母牛から離された雌の子牛の多くは、つなぎ飼いか単頭飼いのストール〈囲い〉で飼育される。2014年の国内調査によると、子牛の25.0%がつなぎ飼い、50.9%が1頭での単飼となっている。ただし、動物福祉の観点からつなぎ飼いや単飼に規制を設ける国もある。

 出産後すぐは母牛から搾乳した乳〈初乳〉が人間の手で与えられるが、その後は母乳から代用乳〈粉ミルク〉への切り替えが行われる。自然界では哺乳期間は6か月と緩やかだが、酪農では牛乳資源の確保や飼料費の節減〈代用乳は配合飼料や乾草より高い〉などの理由から、6~8週で離乳され、濃厚飼料〈配合飼料〉や乾草への切り替えがおこなわれる。乳の泌乳量は3-4回目の出産後がピークであり、その後徐々に泌乳量は減少し、繁殖力も下がっていく。

 濃厚飼料の多給は動物福祉的に問題視されている。牛は粗い植物を餌として生活するように進化した生き物である。しかし酪農では生産性を高めるために炭水化物を多く含んだ濃厚飼料が多給される。このことは蹄病を増加させたり、乳牛の代謝機能に負の影響を与えたりする。

 近年、日本の乳牛の平均除籍〈乳牛としての供用が終了すること〉産次数〈除籍までに出産する子牛の数〉は3.4産程度に低下している。除籍後は別の農家に売られて肉質を上げるために「飼い直し」されることもあるが、多くの場合は乳廃牛となり屠殺(とさつ)される。牛の寿命は自然界では20年ほどだが、乳牛として畜産利用される場合は5-6年と短い。