序文・正確な納税
堀口尚次
インボイス制度とは、消費税〈付加価値税〉の仕入税額控除の方式の一つで、課税事業者が発行するインボイス〈売手から買手へ正確な適用税率や消費税額等を伝えるための請求書など〉に記載された税額のみを仕入税額控除することができる制度のことである。
2023年1月時点で経済協力開発機構〈OECD〉加盟国で日本とアメリカ合衆国のみが国内取引にインボイス制度を一切義務化していなかったが、2023年10月1日から日本で導入されることにより売上税制度のアメリカ以外の全OECD加盟国が導入されている。
付加価値税〈消費税〉導入しているOECD諸国の中で、日本は2023年9月30日迄は、インボイス制度〈適格請求書等保存方式〉ではなく帳簿方式〈帳簿及び請求書等の保存要件〉を採用していた。インボイス制度は正確な納税が出来る一方で、どちらかがデジタル化しておらず、アナログのままだと、デジタル化している側に業務負担が発生する。逆に、取引の双方がデジタル化していると、業務負担軽減の恩恵を受けられる。そのため、既にインボイス制度を導入している日本以外のOECD諸国では、事業者負担軽減のためにインボイスのデジタル化とその義務化範囲の拡大を行っている。
インボイス制度導入の根拠の1つとして「益税」論がある。これは免税事業者が消費税を納めないことは、消費者から預かった消費税分を手元に残していることになり、税負担の公平性を損なうという議論である。これに対して、「益税」の存在を否定する意見もある。つまり、消費税法には「益税」という概念がなく、かつ消費税の逆進性、応能負担の観点から免税事業者を残すことは一定の合理性があり、海外にも免税事業者を認める制度があるという指摘である。
このほかにも中小事業者は価格交渉力が弱く、消費税を上乗せした価格設定ができていないとの意見がある。理論的には転嫁の仕組みによって税負担は最終消費者に帰着することが予定されるが、実際には転嫁が適正に行われず、消費税負担の一部が転嫁されず事業者に負担が生じる損税を生むことも問題とされている。