ホリショウのあれこれ文筆庫

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第787話 伝統と動物愛護の狭間で

序文・伝統ある神事

                               堀口尚次

 

 多度(たど)大社は、三重県桑名市多度町多度にある神社。式内社名神大社〉で、旧社格国幣大社。現在は神社本庁の別表(べっぴょう)神社。三重県では伊勢神宮・二見興玉(ふたみおきたま)神社・椿大神社(つばきおおかみやしろ)に次いで4番目に参拝者数の多い神社である。

 御例祭は一般的には多度祭と称されており「上げ馬神事」や「流鏑馬(やぶさめ)神事」が行われる。祭りで行われる上げ馬神事は、暦応年間〈南北朝時代〉、近隣を領地とする武家によって始められたという。東員町の猪名部(いなべ)神社大社祭の上げ馬神事〈こちらは4月第1週の週末に挙行。歴史は多度大社よりも160年ほど遡る。〉との関連が指摘されている。

 平成21年に行われた上げ馬神事において、神事を運営する地元の団体が、本番前に馬を興奮させる目的で、馬の腹部などを蹴ったり殴打したりしていたことが、津市内の動物愛護団体からの告発によって明らかになり、三重県警が動物愛護法違反の容疑で、団体に所属する桑名市内の住民らを書類送検した。上げ馬神事は、動物虐待に当たるとの指摘が以前から多数出ており、多度大社も、三重県教育委員会から勧告を受けている。

 令和5年6月19日、多度大社で「事故防止対策協議会」が開かれ、三重県桑名市、警察の担当者、地元代表などが出席した。同年5月の神事では馬1頭が転倒骨折して殺処分となっている。この他にも過去15年間に合わせて3頭が神事の際に骨折して殺処分となっていたことを三重県が確認しており、三重県知事も「事故の頻度が多い。対策を講じるべきだ」と述べている。

 神事の際の事故で馬の殺処分が増加している一因として、絶壁の高さが約1.7mと高いことや農耕などで古くから使用されてきた日本在来馬が減少し、その代替として、上げ馬神事には適していないサラブレッドを使用するようになったことが指摘されている。

 三重県は2023年6月に開催された「事故防止対策協議会」で壁を含む坂全体の構造を見直すことを提案し、多度大社や地元の代表はこの提案を受け入れる方針を決めた。日本各地の伝統的な神事〈祭〉には、生命の危機に通ずる危険性をはらんだものは多数存在する。元来神事には、動物にせよ人間にせよ命を神に捧げてきた歴史があったのか。現代における神事と祭の境界線はどこに…