ホリショウのあれこれ文筆庫

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第859話 癇癪を起す

序文・疳の虫のしわざ

                               堀口尚次

 

 「癇癪(かんしゃく)」とは、怒りやすい性格。怒りの発作。短気。易怒性〈生物における興奮性のことであり、それを取り巻く環境が変化したことに対しての反応として現れる〉のこと。

 「」は、ちょっとしたことにも興奮し、いらいらする正室・気持ち。疳(かん) 〈疳の虫〉。

 「」は、近代以前の日本において、原因が分からない疼痛を伴う内臓疾患を一括した俗称。積(せき)ともいい、疝気(せんき)とともに疝癪(さんしゃく)とも呼ばれた。

 平安時代に書かれた『医心方』では、陰陽の気が内臓の一部に集積して腫塊(しゅよう)となって様々な病状を発するとし、内臓に積んだ気が腫瘤(しゅりゅう)になって引き起こされるのがであるとされていた。また、徳川家康も晩年は「腹中の塊」に悩まされた〈医師・片山宗哲の記録〉と伝えられており、腹中の(腫)塊すなわちの正体を日本人の代表的な死因とされている胃癌とする説が有力である。

 その一方で、胃癌の症状とは異なる別の「」の存在も知られており、特に下腹部・下半身の内臓の痛みを「疝気」と呼んだのに対して胸部・上半身の内臓の痛みをと広く呼ばれていたことが知られている。そのため、心筋梗塞や腹膜炎、痙攣(けいれん)をともなうヒステリーなどの精神的な疾患も原因の分からないものについては広く「」として扱っていたと考えられている

 時代劇や落語などで用いられる台詞に「持病のが…」というのがある。

この「」とは、胸や腹のあたりに起こる、激痛の総称である。胆石症、胃痛、虫垂炎〈盲腸〉、生理痛などから来る腹痛すべてがと呼ばれた。

 最近ではほとんど聞かれなくなったが、筆者が子供の頃は「癇癪を起こす」「癇(かん)に障(さわ)る」「癪(しゃく)に障る」などよく耳にしたものだ。

 因みに子供の頃よく遊んだ癇癪玉(かんしゃくだま)は花火の一種であり、火薬を利用して大きな音を立てて遊ぶための玩具。コンクリートアスファルトなどの固い地面に勢いよく叩きつけると、「バン!!」と破裂音をたてた。これも多分、元々の言葉の意味「怒りの爆発」からきているのだろうか。