序文・天神様の風習
堀口尚次
鷽替(うそか)えとは、主に菅原道真を祭神とする神社〈天満宮〉において行われる特殊神事である。鷽〈ウソ〉が嘘〈うそ〉に通じることから、前年にあった災厄・凶事などを嘘とし、本年は吉となることを祈念して行われる。
元来は大宰府天満宮で古来から行われてきた正月七日夜に鬼すべとともに吉兆を招く神事であった。それが現在では全国へ広がり亀戸天神社、大阪天満宮、道明寺天満宮など、九州では住敏神社等でも行われる。木彫りの鷽の木像である木うそを「替えましょ、替えましょ」の掛け声とともに交換しあうことで有名であるが、亀戸天神社では前年神社から受けた削り掛けの木うそを新しいものと交換する。多くの神社では正月に行われるが斎行日は異なる。
太宰府天満宮では1月7日の酉の刻、亀戸天神社では1月24日、25日に斎行される。なお、道真が仁和2年から讃岐守を勤めた滝宮天満宮では4月24日に斎行される。
太宰府天満宮で正月七日酉刻に行われる鷽替神事の伝承では、当地にて菅原道真が蜂に襲われた時に、ウソの大群が飛んできて助かったという。各地の天満宮でも同じような伝承が最も多い。そのため、木うそが授与されることが多いが、天満宮でなくても授与する神社〈福岡市住吉神社など〉もある。近年は木うそのほかにも張り子や土人形、陶器、磁器のウソもある。
また、鷽替えは元来大宰府天満宮で鬼すべと共に行われる吉兆神事が発祥とされ、京都市上京区の北野天満宮は天神信仰の中心の一つであるが、鷽替え神事は無く、木うそも授与しない。しかし北野天満宮から勧請された天満宮でも鷽替え神事を斎行している神社は多い。主に初天神の25日前後に斎行される。三天神の一つとされる、山口県防府市の防府天満宮でも古来記録では鷽替神事を斎行していたが、廃れてしまい現在では行っていない。
因みにウソは、スズメ目アトリ科ウソ属に分類される鳥類の一種。和名の由来は口笛を意味する古語「うそ」から来ており、ヒーホーと口笛のような鳴き声を発することから名付けられた。その細く、悲しげな調子を帯びた鳴き声は古くから愛され、江戸時代には「弾琴鳥」や「うそひめ」と呼ばれることもあった。