ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1086話 未受精卵とニワトリの卵

序文・バタリーゲージ問題

                               堀口尚次

 

 未受精卵とは、産卵されたが受精しなかったのことである。無精卵とも言う。生殖の面では何の意味もないが、いくつかの側面で役に立っている。

 卵は受精して発生が行われることによって新たな個体となるような配偶子の性格の生殖細胞である。受精が行われない場合、発生は行われないから、その卵にはなんら将来はない。これが未受精卵である。普通は一定期間の後に腐敗する。例えば、キンギョの繁殖を行った場合、ホテイアオイの根に多数の小さな透明の卵が着いているのが見えるが、所々に不透明なものがあれば、それが未受精卵である。それらはすぐにミズカビが生える。ただし、単為生殖〈一般には有性生殖=2つの個体間あるいは細胞間で全ゲノムに及ぶDNAの交換を行うことにより両親とは異なる遺伝子型個体を生産するもの する生物で雌が単独で子を作ることを指す〉の場合は全く別で、未受精卵ではあっても発生が行われて子供が生まれる。一般には未受精卵は受精することを前提に作られるから、内容的には受精卵と未受精卵に差はない。

 単為生殖でない動物の場合、一般的には未受精卵は偶然に生じるものであって、役に立たないものである。しかし、それが利用されている例がある。動物では未受精卵が孵化(ふか)した幼生の餌になる例が知られる。これはたまたまそうなるのではなく、習性として親がそのように仕向けるものである。たとえば八重山諸島に分布するアオガエル科のアイフィンガーガエルは樹洞の水たまりに産卵するが、孵化した幼生に対して母親は未受精卵を生産し、これを水中に産んで幼生の餌とする。 

 現在一般的に生産、販売されている食用の鶏卵は、普通は未受精卵である。受精卵が食用に供される例もあるが、現在日本ではそれは付加価値として認められ、より高値で販売される。

 未受精卵はそのまま放置すれば死ぬものである。一般家庭で消費する鶏卵の場合、冷蔵庫なら二週間程度は保管できるし、その時点でも内部の様子には変化が見られない。これは、一つには卵白などの持つ生体防御の仕組みが有効なままであるのもその理由である。なお、有精卵はより高い温度の元で活発に発生が進むべきものであり、冷蔵庫ではそれが不可能になるのでむしろ早くに死んでしまい、保存がよくない。

 採卵用に飼育されている鶏は、1.3日に1個卵を産むように選択的繁殖が行われた種である。採卵用に飼育される鶏種で最も一般的なものは白色レグホンである。卵を産む雌のみが飼育され、雄は処分される。「利用価値がないオスはヒナの段階で処分される。毎年、全国で約1億8千万羽、県内で約1200万羽が廃棄されているという。」雌の雛は75日齢頃まで専用の鶏舎で群飼される。過密な群飼によりひな同士のつつき合いが広がりやすく、傷つくひなが出てくるため、嘴(くちばし)の切断〈デビーク〉が行われる。

 雛は75日齢頃からケージで飼育される。卵を衛生的、かつ集約的に生産できるよう、バタリーゲージで飼育されることが多い。日本の採卵養鶏場では約90%以上がバタリーケージ飼育である。バタリーケージ飼育とは、巣や砂場や止まり木のない、1羽あたりの面積の狭いケージの中で、鶏を飼育する方法である。日本のバタリーケージの平均サイズは1羽あたり470㎠程度。これはB5サイズに満たない大きさである。鶏には隠れて卵を産みたいという強い欲求があり、砂場は掃除行動の一種である砂浴びをするために欠かせないものである。また、狭いケージで鶏を飼育する方法は動物愛護の観点から問題があるとして、アメリカにおける4つの州や欧州連合EU〉では動物福祉の観点から、こういったバタリーケージ飼育は禁止されている

 採卵鶏は150日齢頃から産卵を始める。産卵を開始して約1年が経過すると、卵質や産卵率が低下し、自然に換羽して休産期に入る鶏が出てくる。このため、換羽前に屠殺(とさつ)する場合もあるが、長期にわたって飼養する場合には強制換羽が行われる。強制換羽とは、鶏を絶食させることで給餌を制限し、飢餓の状態におくことで、新しい羽を抜け変わらせることである。強制換羽で生き残った鶏は、また市場に出せる質の良い卵を生むことができる。強制換羽は日本の採卵養鶏では約50 %で実施されている。強制換羽後、約8か月間産卵させ屠殺する。

 日本はバタリーケージの使用に規制がなく、2014年時点で92%がバタリーケージ飼育。国際鶏卵協会データによると94.1%がバタリーケージ飼育となっている。一方で、日本の鶏卵生産者の70%は、日本におけるケージフリーが実現可能であると認識しているという。なお、ケージからケージ飼育移行において必要とする支援について、鶏卵生産者の45%が技術的な助言や研修をあげている。また、小学生の社会科見学で「鶏がかわいそう」という感想にショックを受け、ケージフリーに切り替えたり、平飼い卵の需要に応じたりなどで、ケージフリーの導入に踏み切る農家も一部で見られる。