ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1095話 鉄道公安官は国鉄職員だった

序文・拳銃も携帯していた

                               堀口尚次

 

 鉄道公安職員は、日本国有鉄道の職員の一形態である。「鉄道公安官」または「公安官」、「公安〈公安警察などと明確に区別できる文脈においてのみ〉」と俗称されることが多かった。

 国鉄用地内での痴漢、すり、置き引き、機器の盗難などの窃盗犯罪、立入禁止箇所への無断忍び込み、キセル乗車や無賃乗車といった不正乗車の摘発等の犯罪の予防を行う治安維持と、国鉄用地内において発生した犯罪の捜査、被疑者逮捕の執行を職掌とする職員であり特別司法警察職員に準ずる職である。身分証票は動輪紋章〈蒸気機関車の動輪と桐の組み合わせ〉に「鉄道公安職員手帳」の文字〈すべて金箔押し〉入りの手帳であった。

 「鉄道公安職員の職務に関する法律」では「日本国有鉄道の施設内において公安維持の職務を掌る日本国有鉄道の役員又は職員で、法務大臣運輸大臣が協議をして定めるところに従い、日本国有鉄道総裁の推薦に基づき運輸大臣が指名した者は、これを鉄道公安職員と称し、日本国有鉄道の列車、停車場その他輸送に直接必要な鉄道施設内における犯罪並びに日本国有鉄道運輸業務に対する犯罪について捜査することができる」としていた。

 当初は司法警察職員としての権限は弱かったが、昭和25年に定められた「鉄道公安職員の職務に関する法律」施行後は司法警察職員としての権限も強化され、武器〈拳銃警棒〉の携帯、事件事故の捜査、令状の取得、被疑者の逮捕、証拠品の差し押さえが可能となった。しかし、現行犯人又は被疑者を逮捕した場合には、これを検察官又は警察職員に引致しなければならないとされ、勾留・留置ができなかった〈したがって留置施設も存在しなかった〉。また、鉄道公安職員の捜査は、日本国有鉄道と一部の私鉄の列車、停車場その他輸送に直接必要な鉄道施設以外の場所においては、行うことができないとされ、司法警察権の行使もあくまでも国鉄の鉄道用地内に限られた。つまり日本では他に類を見ない、自衛隊警察官同様の「施設内警察」だったのである。

 昭和62年4月1日の国鉄分割民営化に伴い、民間企業のJR社員が司法警察権を持つことやそれに伴う拳銃所持は適当ではないとされ、鉄道の警察は各都道府県の警察組織に組み込まれた。