ホリショウのあれこれ文筆庫

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第727話 粗にして野だが卑ではない

序文・言動が雑で粗暴であっても決して卑しい行いや態度をとらない

 

                               堀口尚次

 

 石田礼助明治19年- 昭和53年は、日本の実業家。三井物産代表取締役社長・日本国有鉄道総裁。本名・石田禮(れい)助

 城山三郎の小説『粗にして野だが卑ではない―石田礼助の生涯 』は彼の半生記である。題名の「粗にして野だが卑ではない」とは、石田が国鉄総裁に就任した後、国会での初登院で言った言葉である。初登院に際しては「国鉄が今日の様な状態になったのは、諸君〈国会議員〉たちにも責任がある」と痛烈かつ率直に発言。議員達は「無礼者め!」と怒り心頭になったり、発言に呆れ返ったりと様々な反応だったという。他には、国会答弁での「人命を預かる鉄道員と、たばこ巻きの専売が同じ給料なのはおかしい」など、発言をめぐるエピソードには事欠かず、城山はそれらを好意的に描いている。また、鶴見事故〈列車脱線多重衝突事故〉が起きた際、石田は「白髪を振り乱し」「嗚咽で弔辞も読めなかった」とのことで、情に厚いことが窺える。

 「充実した6年3ヵ月・日本国有鉄道監査委員会10年のあゆみ1966年12月」で以下の様に述べている。『次に通勤対策についても述べておかねばなるまい。今思うに、これは大変な考え違いだった。当時、私は、国鉄が通勤対策に巨額の資金を注ぎ込むことには、消極的意見だつた。つまり大都市の通勤輸送は国鉄も一翼を担つているが、本来、政府あるいは東京都・大阪市などの大都市当局がイニシヤティヴをとり住宅政策とも関連させて取組むべき問題であつて、国鉄が独りでやる問題でも、またやれる問題でもない。国鉄は、やはり、他に担い手のない幹線輸送の強化に重点をおくべきで、投資もそれに従つて進めるのがよいというのが私の考えだつた。この意見は、国鉄の投資計画にも反映され、幹線重点輸送というのが、国鉄の一貫した大方針になり、通勤対策については比較的小規模な投資にとどまつた。だから、現在の通勤地獄については、私も大いに責任があると思う。しかし総裁に就任して、新宿や池袋の混雑をまのあたりにみて、つくづく自分の不明を覚つた。もはや政府の仕事とか、都の仕事とか言つている暇はない。放つておけば、大変なことになる。何はともあれすぐに手を打たねばならない、ということで前非を悔い改め、遅まきながら通勤地獄の緩和を大目標に今賢命の努力を払つているような次第だ。』