ホリショウのあれこれ文筆庫

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第916話 ゾロアスター教

序文・マズダー

                               堀口尚次

 

 ゾロアスター教は、古代ペルシア発祥の歴史上最古の宗教である。聖典は『アヴェスター』。イラン高原に住んでいた古代アーリア人はミスラやヴァーユなど様々な神を信仰する多神教〈原イラン多神教〉であった。この原イラン多神教を基に、ザラスシュトラゾロアスターツァラトゥストラ〉がアフラ・マズダーを信仰対象として創設したのがゾロアスター教のルーツである。

 ゾロアスター教は光〈善〉象徴としての純粋な「火」を尊ぶため、拝火教とも呼ばれる。ゾロアスター教の全神殿には、ザラスシュトラが点火したとされる火が絶えることなく燃え続け、神殿内には偶像はなく、信者は炎に向かって礼拝する。中国では祆(けん)教とも筆写され、唐代には「三夷教」の一つとして隆盛した。他称としてはさらに、アフラ・マズダーを信仰するところからマズダー教の呼称がある。ただし、アケメネス朝の宗教を「ゾロアスター教」とは呼べないという立場からすると、ゾロアスター教はマズダー教の一種である。また、この宗教がペルシア起源であることから、インド亜大陸では「ペルシア」を意味する「パールシー」の語を用いて、パールシー教ないしパーシー教とも称される。

 今日、世界におけるゾロアスター教の信者は約10万人と推計されている。インド・イラン・欧米圏などにも信者が存在するが、それぞれの地域で少数派にとどまっている。その来世観・終末論がセム的一神教や仏教などに影響を与えたという説もある。善悪二元論を特徴とするが、善の勝利と優位が確定されている。「世界最古の一神教」とも言われることもある。メソポタミア文明・エジプト神話・ギリシア神話の信仰が失われた今日、ゾロアスター教ヒンドゥー教と並び現存する世界最古の体系的宗教・経典宗教とも言われる。ただし、聖典の確立と明確な教義の整備という点では、後発のキリスト教・仏教・マニ教などに数世紀の遅れをとった。

 日本では東芝が過去に電球や真空管などのブランド名として使用していた「マツダ」の綴り Mazda は、アフラ・マズダーに由来する。日本の自動車メーカーであるマツダは、創業者の姓松田を冠しているとともに、その Mazda の綴りはゾロアスター教の主神アフラ・マズダーに由来している