ホリショウのあれこれ文筆庫

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第919話 千木・鰹木と鴟尾

序文・謹賀新年

                               堀口尚次

 

 千木(ちぎ)・鰹木(かつおぎ)は、神社建築に見られる、建造物の屋根に設けられた部材である。

 千木は屋根の両端で交叉させた部材であり、鰹木は屋根の上に棟(むね)に直角になるように何本か平行して並べた部材である。どちらも古墳時代には皇族や豪族の邸宅にも用いられたが、今では神社の屋根にのみ特徴的にみられる。

 千木は古代、屋根を建造する際に木材2本を交叉させて結びつけ、先端を切り揃えずにそのままにした名残りと見られる。千木鰹木ともに本来は建物の補強が目的だったと考えられるが、後に装飾として発展し、現在では神社の聖性を象徴するものとなっている。

 日本の原初的な住居の建築様式を「天地根源造」というが、2本の垂木を交差させたものを両端に置き、その交差した所に棟木を載せ渡した造りである。垂木(たるき)の棟木に接したところから上は、屋根よりも高くそびえ、この突き出た部分を千木と呼んだ訳だが、一説にヒギとは、「火を防ぐ」の意味であるとか、チギは「茅屋(ぼうおく)の木」の略称、または「違い木」の略称ともいわれるが、東風をコチということから、チギは「風木」という説が強く、神武紀の表記からも風除けの意味が秘められているとみられる。構造的にも強風避けとして、風穴が開けられている。千木が垂木の延長であるのに対し、鰹木は茅葺の押さえとして起こったものであり、『古事記』の雄略天皇の条において「堅魚を上げて舎屋を作る家あり」とあるのが初見である。「鰹木」の名称は、形が鰹節に似ていることが由来とされる。鰹木は「堅緒木」「堅魚木」「勝男木」などとも書く。

 鴟尾(しび)とは、葺屋根の大棟の両端につけられる飾りの一種である。訓読みでは「とびのお」と読む。沓(くつ)に似ていることから沓形(くつがた)とも呼ばれる。鴟吻(しふん)とも。

 寺院・仏殿、太極殿(だいごくでん)などによく用いられる。後漢以降、中国では大棟の両端を強く反り上げる建築様式が見られ、これが中国などの大陸で変化して3世紀から5世紀頃に鴟尾となったと考えられている。唐時代末には鴟尾は魚の形、鯱〈金のシャチホコ〉の形等へと変化していった。火除けのまじないにしたといわれている。材質は瓦、石、青銅など。「鴟尾」が屋根の最上部に設置されるのは火除けのまじないとして用いられた。 魚が水面から飛び上がり尾を水面上に出した姿を具象化したもので、屋根の上面が水面を表し、 水面下にあるものは燃えないとの言い伝えから火除けとして用いられたと考えられている。