序文・オロナイトから
堀口尚次
オロナインH軟膏(なんこう)は、大塚製薬工場が製造、大塚製薬が販売する皮膚用抗菌軟膏材薬〈第二種医薬品〉である。
オロナインの原点となったのはアメリカ合衆国の製薬会社・オロナイトケミカルが製造した殺菌用消毒剤である。オロナイトは、スタンダード・オイル・カリフォルニア社の一部として設立された製薬会社で、現在はシェブロングループのシェブロン・オロナイト・カンパニーとなっている。社名は、スペイン語の「黒い金」から来ており、原油を意味する。
当時、三井物産から「これを何かに使ってみないか」と持ちかけられ、社長の大塚正士(まさひと)が軟膏〈半固形タイプの外用薬〉として売り出すことを提案した。この背景には当時ペニシリン軟膏やメンソレータムといった大衆薬がヒットしていたことがあり、この分野に参入する事で安定した売れ行きが期待できるとの目論みからであった。早速、当時本社があった徳島県の徳島大学の3人の教授に依頼して昭和27年に完成、翌年に販売に漕ぎつけた。
商品名の「オロナイン」はオロナイトの社名から採用されたもので、昭和40年に発売された炭酸飲料の「オロナミンCドリンク」のブランド名のヒントにもなった。「オロナミンCドリンク」と共に大塚グループを支えている看板商品でもある。「オロナイン軟膏」の「オロナ」とビタミンCの「ミンC」を合わせたものである。
商品名は当初は「オロナイン軟膏」だったが、昭和44年に「オロナインD軟膏」に名称を変更、現在の「オロナインH軟膏」となったのは昭和47年からである。この「H」は軟膏の成分の一つ「ヘキシジン」に由来している。商品のパッケージも基本的には初売された当時のものをベースとしているが、これは「いつも使っている人にとってはマンネリで飽きるかもしれないが、パッケージを変えてしまう事で、安易に商品イメージを変えてしまうとお客様がわからなくなるため」ということで、発売当初からの商品イメージを変えずに売り続けることにこだわる大塚の企業姿勢を表している。
【私見】昭和38年生まれの筆者は、軟膏といえば「オロナインH軟膏」しか思いつかない。小さい頃、よくお袋に塗ってもらった記憶がある。オロナミンCドリンクは「元気ハツラツ!」と「読売ジャイアンツ」のイメージが強い。