ホリショウのあれこれ文筆庫

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第24話 ニイタカヤマノボレ

序文・真珠湾攻撃を描いた映画「トラ・トラ・トラ」に出て来るこの暗号。現在でも違う意味で使ったりすることがありますが、少しだけ歴史を紐解いてみました。

                               堀口尚次

 

 日本海軍の真珠湾攻撃を指示した歴史的な暗号電報が新高山登れ(ニイタカヤマノボレ)一二○八(ヒトフタマルハチ)」だ。「新高山」は、当時日本の統治下にあった台湾の玉山(標高3952m)の旧称で、富士山を抜いて当時の日本の最高峰。「一二○八(ヒトフタマルハチ)」は12月8日の事で、真珠湾奇襲決行の日だ。

 この電文は、千葉県船橋市の海軍無線電信所船橋送信所から発信され、その後、山口・岩国沖に停泊中の連合艦隊旗艦・戦艦「長門」から、連合艦隊の全部隊に発信された。陸地と結んだケーブルを通じて艦船向けには船橋送信所経由で、潜水艦には愛知県刈谷市の依佐美(よさみ)送信所から発信。千島列島択捉島の単冠湾を抜錨(ばつびょう・船がイカリを上げること)、太平洋の北方航路をひそかにハワイに近づいていた機動部隊も受信した。

 私の幼い頃には、当時の実家(東海市荒尾町)の屋根の上に登ると、愛知県刈谷市の依佐美送信所の鉄塔を見渡す事が出来た。「刈谷の鉄塔」と言ってた。戦後米軍に接収されたが、平成6年に返還され解体された。現在は依佐美送信所記念館が建つ。

 第一波空中攻撃隊は真珠湾上空に到達し、攻撃隊総指揮官の淵田中佐が各機に対して「全軍突進」を下命した。その後、淵田中佐は旗艦赤城に対して連打「トラ・トラ・トラ」を打電した。これは「ワレ奇襲ニ成功セリ」を意味する暗号略号だ。ちなみにトラ・トラ・トラは、モールス信号で

『・・-・・ ・・・ ・・-・・ ・・・ ・・-・・ ・・・』となる。

 司令長官の山本五十六大将は「全軍将兵は本職と生死をともにせよ」と訓示すると共に、日米交渉が妥結した場合は、出動部隊に直ちに帰投するように命令した。これに二、三の指揮官が不服を唱えたが、山本は「百年兵を養うは、ただ平和を護るためである。もしこの命令を受けて帰れないと思う指揮官があるなら、ただいまから出勤を禁ずる。即刻辞表を出せ。」と厳しく言ったという。

 ちなみに戦争回避で攻撃中止の場合の電文は「ツクバヤマハレ」「トネガワクダレ」であったなど諸説ある。

 こうして日本軍は、完全に奇襲攻撃を成功させたわけであるが、アメリカ側は、「宣戦布告の最期通牒は、真珠湾攻撃の開始前に届かなかった」と言い、アメリカでの日本大使館の対応に禍根を残す事となった。だが当時アメリカは、すべての日本の通信暗号も解読していたとされる。日米合作映画「トラ・トラ・トラ」は傑作であり、今回記述の内容がよくわかる戦争映画である。

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