ホリショウのあれこれ文筆庫

歴史その他、気になった案件を綴ってみました。

第78話 先輩の背中

序文・今でも鮮明に覚えている、先輩の立ち振る舞い。

                               堀口尚次

 

 私が会社に入社したての頃は、仕事に忙殺され、来る日も来る日も残業の嵐だった。しかしながら、部署によっては、涼しい顔をして退社して行く人もおり、新入社員ながら「この会社には助け合いとかないのか!?」と思ったものだ。気の知れた先輩との飲み会では、愚痴ってばかりいた。

 そんなある日、直属の上司と面談になり、溜(た)まった鬱憤(うっぷん)と思いの丈(たけ)をぶちまけてみた。私は内心では、よくぞここまで言った、上司も私の頑張りを認めて褒めてくれるまでいかなくても、慰めてくれるだろうと思っていた。ところがその上司は、開口一番「わかった、じゃあ会社辞めろ。」と言い捨てたのだ。私は一瞬、後頭部を棍棒(こんぼう)で殴打(おうだ)されたかの錯覚に陥(おちい)ったが、若気(わかげ)の至りだったのか、負けじと「上司の指導力・統率力批判」じみた内容で応戦した。それを黙って聞いていた上司は「わかった、わかった、じゃあお前が早く出世して、今の俺の立場になれ。」と諭(さと)されてしまった。

 また、別の日には、もっと偉い上司と面談する機会があったので、私が担当していた、理不尽で非効率な仕事などの疑問点を直訴(じきそ)したが、「君が無意味だと思っている仕事にも、訳があるからやらせている、辛抱してやりなさい。」的に返り討ちに合ってしまった。

 そんなこんなで悶々(もんもん)とする日々を送っていたが、仕事は相変わらず山の様にあり、前にも増して目の前の仕事に謀殺されての残業の毎日だった。

 ところが残業していたある日、なんか見慣れない人がいるなあと思っていたら、他部署の先輩が私の仕事を手伝ってくれていたのだ。それも、私には声も掛けずに黙々と。先輩の部署の仕事はもう終わって、帰って行く姿を確認している。私は、その先輩に「もうタイムカード押したんですよね・・・」と尋ねると、その先輩は「うん、もう押したよ。でも大変そうだったから手伝うよ」と言ってくれたのだ。そしてかなりの時間手伝ってくれてから、何も言わずに静かに帰って行ったのだ。

 私は次の日から、会社の愚痴を言うのを止めた。一生懸命やっていれば、きっと誰かが見ていてくれる。私もあの先輩の様な、かっこいい立ち振る舞いが出来る様に成りたいと思った。先輩ありがとうございました。眼が醒(さ)めました。

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※画像と本分内容とは関係ありません。