ホリショウのあれこれ文筆庫

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第206話 警察民事不介入の怪

序文・警察の立場は複雑

                               堀口尚次

 

 民事不介入とは、警察権〈社会や公共の秩序を維持するために国民に対し命令や強制を加える公権力〉が、民事紛争〈私人間の生活関係に関する権利義務に関する争い〉に介入するべきではないとする警察の原則である民事事件は司法権によって解決すべきであり、行政権に属する警察は口を出してはならない、というのが民事不介入の意味するところである。民事上は契約自由の原則が存在し、同原則から導かれる契約自治の原則により、契約はその当事者間で拘束力を持つ。明確な犯罪行為がない限り、契約当事者間で合意した内容につき警察が介入することは原則的にできない。法律上直接に民事不介入の原則を定めた規定はないが、警察法第2条第2項が以下のとおり定めていることに民事不介入の法的根拠を求める見解もある。『警察の活動は、厳格に前項の責務の範囲に限られるべきであって、その責務の遂行に当っては、不偏不党且つ公平中正を旨とし、いやしくも日本国憲法の保障する個人の権利及び自由の干渉にわたる等その権限を濫用することがあってはならない。』

 ドメスティック・バイオレンス児童虐待に対する対応に関しては、従来は警察は民事不介入を理由に家庭への介入を差し控える傾向があったが、DV防止法施行以降、積極的な対応を取る方向に方針を転換したとされる。同法施行以降もしばらくは被害者の処罰意思が示された場合にのみ捜査を進める方針を採っていたが、ストーカー事案やDV事案での深刻な被害が発生し警察の対応が問題視されることが繰り返されたため、2013年12月6日の通達などに基づき、被害者の処罰意思が明確に示されない場合でも必要な場合には積極的に強制捜査を行う方針が示された。知的財産権を侵害する行為は多くの場合犯罪であるが、捜査当局の立場からすれば単なる民事事件である財産権の侵害であるため、限られた人的・時間的資源の投入には消極的であり、極めて悪質な事案か国際的に協力を要請されるような事案〈海賊版や違法アップロードの取り締まりなど〉を除いて、民事不介入を理由に積極的な捜査に乗り出さないことが多い。1991年の暴力団対策法施行により、警察では民事不介入の原則を転換していったとされている。しかし、末端では2021年5月時点においても民事不介入に基づく対応が続けられていると指摘されている。飲食店等でぼったくりの被害に遭っても、警察は契約トラブル〈金銭トラブル〉として扱い対応しないことがある。さらには、不当な金額の請求を受け、これに応じなかったため店側に軟禁状態に置かれるなどしても、法外な料金でもその場で支払って解決するように勧める場合もあるという。

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