ホリショウのあれこれ文筆庫

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第450話 玉音放送・現代語訳

序文・けふ正午に重大放送

                               堀口尚次

 

 「堪え難きを堪え 忍び難きを忍び もって万世の為に太平を開かんと欲す」で有名な玉音放送は、『大東亜戦争終結詔書』であり「終戦詔書」とも呼ばれ、天皇大権に基づいてポツダム宣言を受諾する勅旨を国民に宣布するために8月14日付で詔として発布され、同日の官報号外にて告示された。大まかな内容は内閣書記官長・迫水久常が作成し、8月9日以降に漢学者・川田瑞穂〈内閣嘱託〉が起草、さらに14日に安岡正篤〈大東亜省顧問〉が刪修(さんしゅう)〈不要な字句または文章をけずって改める〉して完成し、同日の内に天皇の裁可があった。大臣副署は当時の内閣総理大臣鈴木貫太郎以下16名。第7案まで議論された。以下の全文の現代語訳を記す。

 

 私は、深く世界の情勢と日本の現状について考え、非常の措置によって今の局面を収拾しようと思い、ここに忠義で善良なあなた方国民に伝える。私は、帝国政府に、アメリカ・イギリス・中国・ソ連の4国に対して、それらの共同宣言〈ポツダム宣言〉を受諾することを通告させた。

 そもそも、日本国民の平穏無事を確保し、全ての国々の繁栄の喜びを分かち合うことは、歴代天皇が大切にしてきた教えであり、私が常々心中強く抱き続けているものである。先にアメリカ・イギリスの2国に宣戦したのも、正に日本の自立と東アジア諸国の安定とを心から願ってのことであり、他国の主権を排除して領土を侵すような事は、元より私の本意ではない。
 しかしながら、交戦状態も既に4年を経過し、我が陸海将兵の勇敢な戦い、我が全官僚たちの懸命な働き、我が1億国民の身を捧げての尽力も、それぞれ最善を尽くしてくれたにも関わらず、戦局は必ずしも好転せず、世界の情勢もまた我が国に有利とは言えない。それ所か、敵国は新たに残虐な爆弾〈原子爆弾〉を使い、むやみに罪のない人々を殺傷し、その悲惨な被害が及ぶ範囲はまったく計り知れないまでに至っている。
 それなのになお戦争を継続すれば、ついには我が民族の滅亡を招くだけでなく、更には人類の文明をも破滅させるに違いない。そのようなことになれば、私はいかなる手段で我が子とも言える国民を守り、歴代天皇の御(み)霊(たま)に詫びることができようか。これこそが私が日本政府に共同宣言を受諾させるに至った理由である。

 私は日本と共に終始東アジア諸国の解放に協力してくれた同盟諸国に対して、遺憾の意を表さざるを得ない。日本国民であって戦場で没し、職責の為に亡くなり、戦災で命を失った人々とその遺族に思いをはせれば、我が身が引き裂かれる思いである。更に、戦傷を負い、戦禍をこうむり、職業や財産を失った人々の生活の再建については、私は深く心を痛めている。考えて見れば、今後日本の受けるであろう苦難は、言うまでもなく並大抵のものではない。あなた方国民の本当の気持ちも私はよく分かっている。然し、私は時の巡り合わせに従い、堪え難くまた忍び難い思いを堪え、永遠に続く未来の為に平和な世を切り開こうと思う

 私は、ここにこうして、この国の形を維持することができ、忠義で善良なあなた方国民の真心を信頼し、常にあなた方国民と共に過ごす事ができる。感情の高ぶりから節度なく争い事を繰り返したり、或は仲間を陥れたりして互いに世情を混乱させ、その為に人としての道を踏み誤り、世界中から信用を失ったりするような事態は、私が最も強く戒める所である。 
 正に国を挙げて一家として団結し、子孫に受け継ぎ、神国日本の不滅を固く信じ、任務は重く道のりは遠いと自覚し、総力を将来の建設のために傾け、踏むべき人の道を外れず、揺るぎない志をしっかりと持って、必ず国のあるべき姿の真価を広く示し、進展する世界の動静には遅れまいとする覚悟を決めなければならない。
 あなた方国民は、これら私の意をよく理解して行動して欲しい。

 

 この放送は、第二次世界大戦における枢軸国側の日本のポツダム宣言受諾による終戦〈日本の降伏〉を日本国民に伝える目的で、日本ではこの玉音放送の行われた8月15日を「終戦の日」あるいは終戦記念日と呼び、以後毎年のように、日本政府主催で全国戦没者追悼式を日本武道館で行い、正午に黙祷を行うのが通例となっている。なお、正式に日本が降伏したのは、それから半月後の対連合国への降伏文書が調印された同年9月2日のことであり、それまでは国際法上交戦状態だった。