ホリショウのあれこれ文筆庫

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第479話 不当廉売

序文・市場原理の限界

                               堀口尚次

 

 価格競争とは、商品・サービスの市場における競争のうち、価格の安さを競うもの。「値引き競争」「値引き合戦」とも。企業は、自社商品・サービスの プライシング〈値決め、価格設定〉を行うにあたって、〈実際には様々な手法をとりうるのだが〉しばしばそれを意識的・意図的に安く設定することで顧客を多く集める手法・戦術をとることがあり、同一市場で同様の手法をとる企業が多いと結果として、互いに競合他社よりも価格をより安くしようとしたり、他社の価格に牽制されて価格を上げたくても上げられないような、競争の状態を生む。こうした競争のことを価格競争と呼んでいる。価格競争が起きるのはしばしば、競争者の商品・サービス間で性能や品質などの差が小さい場合である。つまり差別化戦略が十分に行われていない時に起きる。

 価格競争が行われると、たいていは商品ごとの粗利が小さくなり、営業利益を押し下げ、しばしば企業の経営状態を悪化させ、ひどい場合は企業は赤字や倒産に陥る。競合企業の全てが価格競争にばかり注力すると過熱し、しばしば泥沼のような価格競争に陥る。〈とりあえず競合他社の商品を排除しようとすることに意識を向けるあまり〉一時的に「採算割れ」の価格がつけられることもあり、つまり、利益が出るはずのない水準まで価格を下げたり、売れば売るほど赤字が増える状態に陥ることもある。結果として価格競争に加わった企業が共倒れになってしまうこともある。そのような「泥沼の価格競争」「不毛な価格競争」に陥らないようにするためには、マーケティングの諸活動を行い、非価格競争を行うという方法があり、これを上手く行うことで、利益を確保できる価格設定も可能となり、あるいは高利益をもたらす高価格に設定できることすらある。しかも、これは顧客にとっても有益な商品・サービスの種類・選択肢を増やすことになり、社会全体の利益・福祉にも貢献する。

 不当廉売(れんばい)とは、不当に安い価格で商品やサービスを提供することをいう。適切な価格で商品を提供している他の事業者の活動が困難となるため国内法や条約によって規制されている。不当廉売は私的独占の禁止及び公正取引の禁止に関する法律〈独占禁止法〉で規制されており、不当廉売が認められた事業者は、公正取引委員会による是正措置の対象となる。具体的には公正取引委員会の一般指定6項において不公正な取引方法に指定されている。一般指定6項が定める不当廉売行為とは、正当な理由がないのに商品又は役務をその供給に要する費用を著しく下回る対価で継続して供給する行為。その他不当に商品又は役務を低い対価で供給する行為であって、他の事業者の事業活動を困難にさせるおそれがあるものを指す。

 上記の「価格競争」と「不当廉売」の定義をみてもわかる通り、非常に曖昧な概念であり、どこからが不当廉売に該当するのかが微妙である。

 資本主義の自由競争では、市場原理に基づいて、経済活動が成り立っている。商品の取引は「需要と供給」のバランスが示す通り、小売業者は商品の値段を自由に設定出来るが、高すぎれば売れないし、安すぎれば利益が出ないだけの話しだ。

 小売業界用語で「ロス・リーダー」なるものがあるが、これは小売店において集客を目的として、採算を度外視して極めて価格が安く設定された商品を指す。ロスリーダーとされた商品の売上のみでは赤字になろうとも、来客は他の商品も伴わせて買うことでロスリーダーでの赤字を補填するという戦略がとられている。一般にロスリーダーとされる商品は、価格弾力性が高く単価が安くて大量販売をしやすい物である。日本の小売店では品質管理が難しい生鮮食品の赤字と引き換えに利幅の大きい衣料品で利益を出すという戦略が取られてきた。欠点としては補完的な商品が必要なことである。

 「損して得取れ」という言葉があるように、安価な広告掲載商品・特売商品〈日替わり奉仕品なんて最終手段もある〉で集客し、利益が取れるいわゆる「定番商品」で稼ぐ。これが小売業の定石だ。

 私の小売業の経験から、定番商品の重要さは痛いほど教育された。安価な広告商品・特売商品を品切れさせれば、当然お客様に迷惑がかかり、上司から叱責され評価も下がるのだが、本来利益の出ないロスリーダーに神経を使うより、稼ぎ頭の定番商品の充実〈品切れさせない在庫管理〉に注力する方が理にかなっていたのだ。

 販売価格が他より安ければ、商品は売れる。だから価格競争が起きる。不当廉売禁止は、自由競争の市場原理から漏れてしまった小売業者へのセイフティーネットか?損してもいいが、徳〈人徳ならぬ店徳〉まで失わないように・・・