ホリショウのあれこれ文筆庫

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第694話 Z旗を揚げてこれに代える

序文・勝利を祈願する

                               堀口尚次

 

 Z旗(ゼットき)Z信号旗は、船同士の意思疎通のために用いる国際信号機の1つ。

Z旗はアルファベットの"Z"の文字を示す信号として用いられる他、単独で「私は引き船が欲しい」、漁場では「私は投網中である」の意を示す信号としても用いる。日本では、旗に付けられた意味に因み、スポーツ競技の応援や、選挙・受験など、負けられない勝負に挑む時、「勝利」を祈願して用いられる場合もある

 国際的にはZ旗は前節の意味しか有していない。しかし、Z旗は海戦史において特別な意味を持つ旗としても広く世界に認知されている。

 日露戦争時で行われた日本海海戦の際、連合艦隊司令長官東郷平八郎は、トラファルガー海戦の信号文「英国は各員がその義務を果たすことを期待する」に倣(なら)い、「皇國ノ興廢(こうはい)此ノ一戰ニ在リ、各員一層奮勵(ふんれい)努力セヨ」という意味を持たせたZ旗を旗艦「三笠」のマストに掲揚した。日本海海戦の逸話以降、日本海軍ではZ旗は特別な意味を持つこととなり、太平洋戦争中の日本海軍では、大規模な海戦の際には旗艦のマストにZ旗を掲揚することが慣例化した。なお東郷が戦闘前に檄を飛ばす信号を出したのは日本海海戦が初めてではなく、旅順口の劈頭(へきとう)ではより簡潔な「勝敗の決此の一戦に在り各員努力せよ」という信号を出しているが、どの旗を使ったかは不明である。

 日産自動車ダットサンZ / フェアレディZにおけるZ旗にまつわる逸話がある。1960年代中期、当時のアメリカ日産の社長片山豊が企画提案したのがきっかけで開発が始まったスポーツカー「開発コード "Z"」。「儲からないスポーツカー開発には力を入れない」という日産の経営方針のため、デザインチーフの松尾良彦をはじめとしたスポーツカー開発陣は冷遇されていた。そんな、スタッフに宛てアメリカ日産の片山は、『頑張れ!』という一言だけのメッセージとともに「Z旗」を贈呈した。これが「フェアレディZ」の由来となった。 

 映画「トラトラトラ」で東野栄次郎ふんする南雲中将が「諸君らの壮途(そうと)を見送るに当たり本職は改めて激励の辞は述べない 明治38年日本海海戦のおり 東郷長官が掲げた信号旗Z旗を掲げてこれに代える」と言う場面が印象的だ。