ホリショウのあれこれ文筆庫

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第722話 元帥と大元帥

序文・統帥権の頂点

                               堀口尚次

 

 日本における元帥(げんすい)は、日本軍における最高位の階級または称号である

元帥を超える階級もしくは称号は、天皇が称した大元帥(だいげんすい)のみである。明治5年から明治6年においては元帥〈陸軍元帥〉の階級を指す。ただし、この段階では「海軍元帥」は存在しない。明治31年以降は元帥府に列せられた陸軍大将または海軍大将に与えられた称号〈元帥陸軍大将〉及び〈元帥海軍大将〉である。現在の自衛隊にはこれに相当する称号は存在しない。

 日本軍〈陸・海軍〉における元帥の制度は、明治5年に参議・西郷隆盛陸軍元帥の階級に任官したのが始まりである。さらに同年には参議兼陸軍元帥西郷隆盛が改めて陸軍元帥兼参議に任じられている。そして、明治5年太政官布告第252号により大元帥及び元帥の服制が制定された。同布告によって定められたのは大元帥と元帥の階級章であるが、天皇大元帥となった場合の階級章と釦も大元帥とは別に定められていた。このことから、当時は天皇以外の者が大元帥となることも想定されていたと指摘されている。明治6年の官制改正で元帥の階級が廃止されたため、西郷隆盛はその時点で陸軍大将となった〈大元帥の任官者は無かった〉。階級としての元帥制度の運用は、このように極めて短期間で終了した。

 大元帥は、全軍の総司令官に与えられる称号。国家元首に与えられる名誉的なものであることが多いが、国によっては元帥の上、最高位の階級となっている場合や総帥の下になる場合もある。

 日本では、明治4年の建軍当初に大元帥という官名が兵部省職員令附属の相当表に記載され、明治5年太政官布告第252号にて服制〈階級章〉も定められたものの、任官者が無いまま明治6年に廃止された。明治22年施行の大日本帝国憲法下では天皇統帥権を持つと定められ、即ち陸海軍の最高指揮官たる天皇が唯一の大元帥と定められた大元帥たる天皇は大将の階級章に菊花紋章が付された特別な階級章を佩用(はいよう)し、軍服型の御服を着用した。階級章と御服は陸海軍どちらのものも着用していたが、普段は陸軍のものを、海軍のものは海軍の行事の際にのみ着用した。このため、残っている御服姿の写真も前者のものが多い。明治天皇大正天皇昭和天皇の3名がこれを称した。