ホリショウのあれこれ文筆庫

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第761話 トヨタ・2000GTはヤマハ製?!

序文・幻のスポーツカーの生い立ち

                               堀口尚次

 

 2000GTは、トヨタ自動車工業〈トヨタ自動車ヤマハ発動機が共同開発したスポーツカーであるヤマハ発動機に生産委託され、1967年から1970年までトヨタブランドで販売された。型式は「MF10」と「MF10L」。

 2000GTはその成立過程での2社共同開発体制という特異性に加え、生産についてもヤマハおよびその系列企業に委託されたこともあり、「果たしてトヨタが開発した自動車と捉えるべきか」という疑問が、愛好者、評論家の一部によって呈されている。自動車関係の書籍・雑誌では古くから、さらに近年では個人によるブログ上などでも「トヨタ2000GTの自力開発ができず、ヤマハが開発・生産したスポーツカーを買い取っていたに過ぎない」「金だけ出してトヨタのバッジをつけた」「これは実際には『ヤマハ2000GT』というべきものである」とする辛辣な評、また、「日産・2000GTの試作車はトヨタ2000GTの原型」と断じる極端な説までもがごく一部で流布されている。

 しかし実際には前述の通り、ヤマハとの技術提携が結ばれる4ヶ月前からトヨタは開発に着手している。またヤマハ発動機側は2000GTの開発についての公式な言及を、ホームページ上において「トヨタ2000GTの全体レイアウト計画やデザイン、基本設計などはトヨタ側でなされ、ヤマハは同社の指導のもとで主にエンジンの高性能化と車体、シャシーの細部設計を担当した」としており、「開発丸投げ」というのは当たらない。当時のトヨタは既に自動車メーカーとして30年近くに渡ってノウハウを蓄積している一方、ヤマハは前述の通り4輪に関しては試作車2台に留まっていると見られる。

 また「エンジンはヤマハ製」というのも正確ではなく、トヨタ・クラウン用のM型直列6気筒4ストロークSOHCエンジンをベースに、ヤマハが生産したDOHCヘッドを装備したものになっている。これは後年のR型・2T型・G型・3S型など多数のDOHCエンジンにも採用された手法である。当時ヤマハはオートバイ・船外機含め4ストロークエンジンを生産した経験はやはりYX30の4気筒1600ccエンジンだけだったと見られる。

 逆に「ヤマハは2輪車メーカーであり4輪車の量産をしたことがなく、しかも2ストロークがメインで4ストロークの経験が少なかったので、2000GTを開発できる技術力がないはず。2000GTトヨタが主体になって開発製造したに違いない」という意見もあるが、ヤマハ側の責任者である安川力は「2000GTトヨタが企画し、基本的な図面はトヨタからもらい、全体のレイアウトにヤマハの考えは入っていない。でもその先の開発では、ヤマハ側の経験や技術も盛り込まれている。ヤマハがYX-30を試作し、日産との仕事も経験してきた経緯が底流にある」、「新しい事業を成功させる要因は、経験や技術的な積み重ねよりも、夢や情熱。極端に言うと、新しいものの開発には、むしろ経験や積み重ねがないほうがいい。2輪メーカーなのに4輪が作れるかとか、2ストロークと4ストロークは違うとか、そんなことはまったく問題にならない」と語っている。実際、ヤマハは本来は楽器メーカーでありながら、わずか1年ほどの短期間で初の2輪車〈ヤマハYA-1〉の開発と市販車の量産を行っている。

 トヨタの高木英匡は「もしもヤマハが名乗り出てくれなかったら、2000GTは実現が難しかっただろう。4輪車を造り慣れている企業〈トヨタのグループ企業など〉だったら、こんな特殊な車〈の開発や製造〉は無理、と断られたかも知れない。ヤマハはいい意味で4輪に関し白紙だったから、喜んで受けてくれたのかも知れない。ヤマハはスポーツカー〈日産2000GT〉のために優秀な人材を集めていただろうから技術的なポテンシャルも高かったと思う」と述べている。

 2000GTのレース仕様やトヨタ・7の開発や製作などに当たったヤマハの田中俊二は「ヤマハ〈発動機〉はトヨタに比べ歴史が浅くトヨタに教えを求めるところが多かった。一方、トヨタは一般的な量産車の開発製造にたけているが、DOHCの高性能車はヤマハにも経験があった。トヨタヤマハもいろいろなことを共に学んだといえるのではないか。未知の領域へのチャレンジだったから」と述べている。トヨタの高木英匡は「田中さんのおっしゃるとおりでしょうね」と述べている。細谷四方洋は「ヤマハの協力がなかったら2000GTは誕生しなかったでしょう」とヤマハの技術力を高く評価している。

 またヤマハトヨタ〈顧客〉から業務を委託された側であり、トヨタ・モータースポーツクラブ〈TMSC〉会長を務めた多賀弘明は「2000GT関係者の会に出席するヤマハ関係者は、トヨタの手前、どこか遠慮がちにも感じる」と述べている。

ヤマハ本社に展示のトヨタ2000GT