ホリショウのあれこれ文筆庫

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第931話 火盗改

序文・特別捜査官

                               堀口尚次

 

 火付盗賊改方(ひつけとうぞくあらためかた)は、江戸時代に主に重罪である火付け〈放火〉、盗賊押し込み強盗賭博を取り締まった役職。本来、臨時の役職で、幕府常備軍の御先手弓・筒之頭から選ばれた。御先手頭の職務との兼役であるため「加役(かやく)」とも呼ばれ、時代劇などでは「火盗改(かとうあらため)」、あるいは「火盗」と略して呼ばれることがある。

 明暦の大火以後、放火犯に加えて盗賊が江戸に多く現れたため、幕府はそれら凶悪犯を取り締まる専任の役所を設けることにし、「盗賊改」を寛文5年に設置。その後「火付改」を天和3年に設けた。一方の治安機関たる町奉行が役方〈文官〉であるのに対し、火付盗賊改方番方〈武官〉である。この理由として、殊に江戸前期における盗賊が武装強盗団であることが多く、それらが抵抗した場合に非武装町奉行では手に負えなかった。また捜査撹乱を狙って犯行後に家屋に火を放ち逃走する手口も横行したことから、これらを武力制圧することのできる、近代以降でいう国家憲兵・特殊部隊のような、いわば事実上の準軍事組織として設置されたものである。

 初代の頭〈長官〉として「鬼勘解由(かげゆ)」と恐れられた中山勘解由が知られるが、当時は火付改と盗賊改は統合されておらず、初代火付改の中山直房のこととも同日に盗賊改〈初代ではない〉に任じられた父の中山直守ともいわれる。

 決められた役所はなく、先手頭などの役宅を臨時の役所として利用した。任命された先手組の組織〈与力・5-10騎、同心・30-50人〉がそのまま使われるが、取り締まりに熟練した者が、火付盗賊改方頭が代わってもそのまま同職に残ることがあった。町奉行所と同じように目明し〈岡っ引=非公認協力者〉も使った。天明7年から寛政7年まで長官を務め、池波正太郎の小説「鬼平犯科帳」の主人公となった長谷川宣以(のぶため)〈通称・平蔵〉が有名である。

 火付盗賊改方は窃盗・窃盗・放火などにおける捜査権こそ持つものの裁判権はほとんど認められておらず、敲(たた)き刑以上の刑罰に問うべき容疑者の裁定に際しては老中の裁可を仰ぐ必要があった。

 火付盗賊改方長官は矯正授産施設である人足寄場〈軽罪人・虞犯者の自立支援施設〉も所管したが、初代の人足寄場管理者である長谷川宣以以外は、火付盗賊改方とは別組織の長である寄場奉行として、町奉行の管轄下に置かれた。