ホリショウのあれこれ文筆庫

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第946話 源氏名

序文・昔の名前で出ています

                               堀口尚次

 

 源氏名とは、『源氏物語』にちなんで女性に付けられたあるいは女性が名乗った名前のことである。源氏名を歴史的に見ると、元来は『源氏物語の巻名で、最初は名歌の題材や投扇興(とうせんきょう)の点数の名称に使ったり、後に女官遊女が自らの出世、輝かしい未来を願い、源氏のように勝負に勝ちたいと本名を隠し源氏名を名乗ったことがことの始まりである。※投扇興とは日本の伝統的対戦型ゲームの一種である。桐箱の台に立てられた「蝶」と呼ばれる的に向かって扇を投げ、その扇・蝶・枕によって作られる形を、源氏物語百人一首になぞられた点式にそって採点し、その得点を競う。

 当初は中世から近世にかけて公家に仕えた女官の名のことだったが、後に武家奥女中などにおいても用いられるようになった。「源氏名」を使用したことが確認できる最も早い事例は、『実隆公記』に記載されている、「梅枝」という名の三条西実隆に下女として仕え、永正2年に死去した女性である。

 源氏名とされるための条件は以下のようなものである。

 ・最狭義には、五十四帖の巻名のいずれかそのものに限られる。

 ・狭義にはそれに加えて、巻名になっていない『源氏物語』の登場人物にちなむものを含む。

 ・広義には、『源氏物語』とは直接の関係ないが『源氏物語』を連想させるような雅な名前を含む。

 もともと遊女には、古くは平安時代から本名とは異なる雅(みやび)な名前を名乗る慣習があり、江戸時代の遊郭遊女源氏名を使用した。この段階で『源氏物語』とはあまり関係のない「源氏名」が多くなったとされる。

 さらに時代が下り、水商売や風俗店で働くホステスやホスト、及びコスプレ系飲食店〈メイド喫茶など〉の従業員は、やはり仕事の上で本名ではない名前を使うことが多いが、『源氏物語』とは特に関係ないにもかかわらず、それらをも源氏名と呼ぶようになった。現代ではマスコミも使用している。

 かつて小林旭が歌ってヒットした「昔の名前で出ています」の歌詞に出てくる「しのぶ」とか「なぎさ」などの名前も、源氏名であろうか。