ホリショウのあれこれ文筆庫

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第1067話 四日市の大入道

序文・大坊主

                               堀口尚次

 

 大入道(おおにゅうどう)は、日本各地に伝わる妖怪。

 名称は大きな僧の意味だが、地方によって姿は実体の不明瞭な影のようであったり、僧ではなく単に巨人であったり、様々な伝承がある。坊主〈僧〉姿のものは大坊主ともいう。また大きさも人間より少し大きい2メートルほどのものから、山のように巨大なものもある。

 人を脅かしたり、見た者は病気になってしまうとする伝承が多い。キツネやタヌキが化けたもの、または石塔が化けたとする話もあるが、多くは正体不明とされている。

 三重県四日市市で毎年10月に行なわれる諏訪神社の祭礼四日市祭は、大入道山車三重県有形民俗文化財〉で知られる。これは諏訪神社の氏子町の一つである桶之町〈現在の中納屋町〉が、文化年間に製作したものとされ、都市祭礼の風流のひとつとして、町名の“桶”に“大化”の字を当てて「化け物尽くし」の仮装行列を奉納していたものが進化したものと考えられているが、以下のような民話も伝えられている。

 桶之町の醤油屋の蔵に老いた狸が住み着き、農作物を荒らしたり、大入道に化けて人を脅かしたりといった悪さをしていた。困り果てた人々は、狸を追い払おうとして大入道の人形を作って対抗したが、狸はその人形よりさらに大きく化けた。そこで人々は、大入道の人形の首が伸縮する仕掛けを作り、人形と狸での大入道対決の際、首を長く伸ばして見せた。狸はこれに降参し、逃げ去って行ったという。

 また、反物屋の久六のもとに来た奉公人が実はろくろ首であり、正体を見られ消息を絶った彼を偲び製作したという話もある。

 高さ2.2メートルの山車の上に乗る大入道は、身の丈3.9メートル、伸縮し前へ曲がる首の長さは2.2メートル、舌を出したり目玉が変わる巨大なからくり人形である。これを模して首の伸縮する大入道の紙人形も地元の土産品となっている。また毎年8月に開催される市民祭の大四日市まつりにも曳き出されるなど、四日市市のシンボルキャラクターになっている。なお四日市市ゆるキャラこにゅうどうくん」は彼の息子という設定。