ホリショウのあれこれ文筆庫

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第247話 名作「砂の器」

序文・差別と宿命

                               堀口尚次

 

 『砂の器』は、松本清張の長編推理小説

東京都内、大田区蒲田駅の操車場で起きた、ある殺人事件を発端に、刑事の捜査と犯罪者の動静を描く長編小説。清張作品の中でも特に著名な一つ。ハンセン氏病を物語の背景としたことでも知られ、大きな話題を呼んだ。ミステリーとしては、方言周圏論に基く(東北訛(なまり)と「カメダ」という言葉が事件の手がかりとなる)設定が重要な鍵となっている。

 1974年に松竹で映画化、またTBS系列で2回、フジテレビ系列で3回、テレビ朝日系列で2回の7度テレビドラマ化され、その都度評判となった。物語は、「病気への差別」と「親子の宿命」が根底のテーマだ。

 ハンセン氏病は、抗酸菌の一種であるらい菌の皮膚のマクロファージ内寄生および抹消神経細胞内寄生によって引き起こされる感染症である。らい菌を発見したノルウェーの医師、アルマウェル・ハンセンに由来する。かつての日本では「癩(らい)」、「癩病」、「らい病」とも呼ばれていたが、それらを差別的に感じる人も多く、歴史的な文脈以外での使用は避けられるのが一般的である。その理由は、「医療や病気への理解が乏しい時代に、その外見や感染への恐怖心などから、患者への過剰な差別が生じた時に使われた呼称である」ためで、それに関連する映画なども作成されているが、1974年の映画「砂の器」においても「らい病」の表現が使われている。現在では、たとえ発病しても、初期の状態であれば、経口の特効薬かつ通院治療によって完治できるとされる。

 差別と偏見はいつの世にもある、無知と蒙昧(もうまい)が引き起こす。自らが教養を高めるしかない。「親子の宿命」に関しては、親と子の血縁は、逃れられない宿命の糸で結ばれており、特に壮絶な生き様を共有してきた親子に於いては尚更である。子は親を選べられない。だからこそ、そこには宿命的な関係が生れ、深い愛情と慈愛の念が築かれる。

 この物語は、ミステリー小説としての推理の面も強調されているが、それ以上に、「人の世の差別と偏見」や「親と子の宿命的な運命」を見事に描き切っている。タイトルの「砂の器」は、『もろくて壊れやすいもの』を差していると思われるが、「差別や偏見を引き起こす人間の心」も「宿命で結ばれた親子の情」も砂の器の如く、もろくて壊れやすいものだったのだろうか。

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