ホリショウのあれこれ文筆庫

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第757話 村八分

序文・葬式と火事以外

                               堀口尚次

 

 村八分とは、村落〈村社会〉の中で、慣習を破った者に対して課される制裁行為であり、一定の地域に居住する住民が結束して交際を絶つこと〈共同絶交〉である。転じて、地域社会から特定の住民を排斥したり、集団の中で特定のメンバーを排斥〈いじめ〉したりする行為を指して用いられる。

 言語学者によると、「地域の生活における十の共同行為のうち、葬式の世話と火事の消火活動という、放置すると他の人間に迷惑のかかる場合二分以外の一切の交流を絶つことをいうもの」である。葬式の世話が除外されるのは、死体を放置すると腐臭が漂い、また疫病の原因となるためとされ、また死ねば生きた人間からは裁けないという思想の現れともいう。また、火事の消火活動が除外されるのは、他の家への延焼を防ぐためである。なお、残り八分は成人式結婚式出産病気の世話、新改築の手伝い、水害時の世話、年忌法要、旅行であるとされる。

 しかしながら「はちぶされる」という言葉自体が元々は村落生活とは無関係に江戸時代中期に発生した言葉であること、江戸期の村落共同体において重要な機能であり、また、実際の村八分においてなされた入会地の利用の停止が含まれていないことなどを考慮すると、語源俗解で後世の附会であろうと主張されており、「八分」は「はぶく」や「はじく」〈爪弾きにする〉の訛ったものなどの諸説も唱えられている。

 村八分の措置がなされ、入会地の使用が停止されると、薪炭や肥料〈落ち葉堆肥など〉の入手に窮する他、入会地に属する水源の利用ができなくなるなど、事実上村落社会における生活ができなくなった。しかし、村落の中での掟や秩序は、合法的・客観的で公明正大なものとは程遠く、その地域の有力者の私的・主観的な利益に沿うためのものや江戸時代までしか通用しないような封建的・旧態依然とした内容のものも多いなど、公平な秩序維持活動とは言えず、明治以降は、人権を侵害し法に反するものと認識され、明治42年大審院判決で、村八分の通告などは脅迫あるいは名誉棄損とされた

 なお、現在、NHKをはじめ多くの放送局では、「村八分」という言葉を放送自粛対象としている。