ホリショウのあれこれ文筆庫

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第794話 釣瓶落とし

序文・秋の日の夕暮れ

                               堀口尚次

 

 「釣瓶(つるべ)落としまたは「釣瓶下(お)ろしとは、京都府滋賀県岐阜県、愛知県、和歌山県などに伝わる妖怪木の上から落ちて来て、人間を襲う、人間を食べるなどといわれる

 大正時代の郷土研究資料『口丹波口碑集』にある口丹波京都府丹波地方南部〉の口承(こうしょう)によれば、京都府曽我部村字法貴〈現・亀岡市曽我部町〉では、釣瓶下ろしはカヤの木の上から突然落ちてきてゲラゲラと笑い出し、「夜業すんだか、釣瓶下ろそか、ぎいぎい」と言って再び木の上に上がっていくといわれる。また曽我部村の字寺でいう釣瓶下ろしは、古い松の木から生首が降りてきて人を喰らい、飽食するのか当分は現れず、2、3日経つとまた現れるという。同じく京都の船井郡富本村〈現・南丹市八木町〉では、ツタが巻きついて不気味な松の木があり、そこに釣瓶下ろしが出るとして恐れられた。大井村字土田〈現・亀岡市大井町〉でも、やはり釣瓶下ろしが人を食うといわれた。

 岐阜県久瀬村〈現・揖斐川町〉津汲では、昼でも薄暗いところにある大木の上に釣瓶下ろしがおり、釣瓶を落としてくるといい、滋賀の彦根市でも同様、木の枝にいる釣瓶下ろしが通人目がけて釣瓶を落とすといわれた。

 和歌山県海南市黒江に伝わる元禄年間の妖怪譚(ばなし)では、古い松の大木の根元にある釣瓶を通行人が覗くと光る物があり、小判かと思って手を伸ばすと釣瓶の中へ引き込まれて木の上へ引き上げられ、木の上に住む釣瓶落としに脅かされたり、そのまま食い殺されたり、地面に叩きつけられて命を落としたという。

 「釣瓶・釣る瓶」とは、井戸において、水をくみ上げる際に利用される、綱等を取り付けた桶などの容器をいい、後に、それを引き上げる天秤状の釣瓶竿や滑車など機構の一切を指すようになった。

 釣瓶を井戸の中に落とす際に、急速に落ちるため、の日の暮れやすいことの例えとして「秋の日は釣瓶落とし」というように形容的に使用される

 「釣瓶火」は妖怪の一種。釣瓶落としと釣瓶火は同一という説もあるが、定かではない。釣瓶落としは古くなった釣瓶が基になっているが、釣瓶火は像容が、釣瓶とそれに繋がる縄のように見える炎や人魂(ひとだま)である。