ホリショウのあれこれ文筆庫

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第820話 覆水盆に返らず

序文・取り返しがつかない?!

                               堀口尚次

 

 覆水盆に返らずは、ことわざの一つ。下の由来から、「一度離婚した夫婦は元に戻ることはできない」、転じて「一度起きてしまったことは二度と元には戻らない」と言う意味。因みに「覆水」とは容器からこぼれた水のこと。

 『周に仕官する以前のこと、呂尚はある女と結婚したが、いつも仕事もせず、呑気に本ばかり読んでいた。それを見た女は呂尚に失望し「この呂尚と一緒にいてもいいことはない」と思い、女は呂尚と離縁した。その後、呂尚は、周の王の目に留まって仕えることになった。やがて、呂尚は「太公望」として周から斉の国に封ぜられ、身分の高い大人物になった。そんな呂尚の大出世を知って、昔、呂尚を捨てた女が呂尚の前に再び現れた。そして、女は、「どうか私ともう一度、一緒に暮らしてほしい」と復縁を申し出た。そこで、太公望となった呂尚は水の入った盆を持ってきて、水を床にこぼし、「この水を盆の上に戻してみよ。」と女に言った。女はこぼれた水を元に戻そうとやってみたが当然できなかった。太公望呂尚はそれを見て、「一度こぼれた水は二度と盆の上に戻ることはない。それと同じように、私とお前との関係も昔のような元の関係に戻ることはありえないのだ!」と言って、女の復縁の申し出を断った。』

〈出典は後奏の時代に成立した『捨遺記』によるとされる〉

 中国語の「盆」は日本語の「お盆」ではなく、鉢・ボウル状の容器のことである。この話は太公望の数多くの伝説の一つであって、必ずしも史実とは限らない。〈理由:前漢の人物である朱買臣について、同様の逸話がある。太公望が生きていた当時は、まだ書物がほとんどない時代である〉

私見】「一度起きてしまったことは二度と元には戻らない。」というが、そんなことはなくて、元に戻る場合もある。離婚しても同じ相手と再婚する例はある。ここでいう「二度と元には戻らない」とは、たとえ元に戻ったとしても、それは「当初の元の状態」ではなく、やり直しを経た上で元の状態に戻したという意味なのではないか。一度起きてしまったことは、歴然とした消せない事実であり、タイムマシンでも無い限り元の状態には戻せないのだ。但し、人生はやり直しが効くこともあるのだ。「取り返しが付かない事をしてしまった」と嘆いているより、前を見てなんとかやり直してみる事も大事なのではないか。