ホリショウのあれこれ文筆庫

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第848話 コペルニクスと地動説

序文・常識をひっくり返す

                               堀口尚次

 

 地動説とは、宇宙の中心は太陽であり、地球はほかの惑星とともに太陽の周りを自転しながら公転しているという学説のこと。宇宙の中心は地球であるとする天動説〈地球中心説〉に対義する学説である。太陽中心説ともいうが、地球が動いているかどうかと、太陽と地球のどちらが宇宙の中心であるかは異なる概念である。

 聖書の解釈と地球が動くかどうかという問題は関係していたが、地球中心説カトリックの教義であったことはなかった。地動説〈太陽中心説〉確立の過程は、宗教家〈キリスト教〉に対する科学者の勇壮な闘争というモデルで語られることが多いが、これは19世紀以降に作られたストーリーであり、事実とは異なる。

 ニコラウス・コペルニクスは、ポーランド出身の天文学者カトリック司祭であると誤解されがちであるが、第二ヴァチカン公会議以前に存在した制度の「下級品級」であり、現在でいわれるような司祭職叙階者ではない。晩年に『天球の回転について』を著し、当時主流だった地球中心説〈天動説〉を覆す太陽中心説〈地動説〉を唱えた。これは天文学上最も重要な発見とされる〈ただし、太陽中心説をはじめて唱えたのは紀元前三世紀のサモスのアリスタルコスである〉。また経済学においても、貨幣の額面価値と実質価値の間に乖離が生じた場合、実質価値の低い貨幣のほうが流通し、価値の高い方の貨幣は退蔵され流通しなくなる 〈「悪貨は良貨を駆逐する」〉 ことに最初に気づいた人物の一人としても知られる。

 地動説は単なる惑星の軌道計算上の問題のみならず、世の哲学者、科学者らに大きな影響を与えた。地動説の生まれた時代を科学革命の時代ともいうのは、それほどまでに科学全体に与えた、そして、科学が人間の生活に影響を与え始めた時代であることをも反映している。

“常識をひっくり返す〈証明されている〉新説” を「コペルニクス的回転」などと呼ぶのは、その名残である。また革命〈レボリューション〉なる言葉も、元はこの科学革命を指す言葉であり、のちに政治用語にも転用されたのである。