ホリショウのあれこれ文筆庫

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第885話 限界集落と都市部への余波

序文・地方の過疎化と都市の空洞化

                               堀口尚次

 

 限界集落とは、人口の50%以上が65歳以上で、農業用水や森林、道路の維持管理、冠婚葬祭などの共同生活を維持することが限界に近づきつつある集落のことである。2015年の国土交通省の調査では、今後10年以内に消滅する恐れがあると予測される集落は570あり、いずれ消滅する恐れがあるとみられる集落と合わせると、過疎地域全体の4.8%〈3,614集落〉になる。日本の人口が増加していた昭和中期までの時代でも、山奥で交通が不便、豪雪などの自然災害といった理由で、住民全員が離村したゴーストタウンは各地にあった。少子化と都市部への人口集中が顕在化した昭和後期から平成にかけて、外部との道路が整備され災害への対策がとられていても、限界集落やその予備軍となる地域が増えている。

 日本国政府の調査では、住民の半数以上が65歳以上の集落は、2015年度時点で全国に1万5568ある。高齢者が中心となった集落では、子育て世帯や中年以下の転入が存在しないか、極めて少ない状況が続くと、住民の死去や転出に伴い、集落の維持が難しくなり、無人化する。こうした事例は、中山間地域や離島で目立つ。このような状態となった集落では、住民自治、生活道路の管理、冠婚葬祭など共同体としての機能が急速に衰えてしまい、やがて消滅に向かう。共同体として存続するための「限界」という意味で「限界集落」と表現されている。「限界集落」にはもはや就学児童など未成年者の世代が存在せず、独居老人やその予備軍のみが残っている集落が多く、病身者も少なくない。

 21世紀になってから、過疎地以外の大都市圏でも、限界集落に類似した現象が見られるようになった。都市圏のベットタウンやかつての新興住宅地などにおける単身者向けの大規模公営団地に高齢者の入居が集中するなどの問題のほか、数十年前に一斉に入居した核家族世帯の子供が独立して親世代のみになるなどして、高齢化率が極端に上昇してしまう現象である。生活困難化による孤独死や共同体の崩壊など、農山漁村の僻(へき)地や離島にある過疎地域の限界集落と同様の問題を抱え込んでおり複雑な状況である。これらを都市部で高齢化が深刻な地区を指して、「限界団地」や「限界マンション」、「限界都市」といった派生語も使われるようになっている。