ホリショウのあれこれ文筆庫

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第933話 たらい回し

序文・元々は曲芸

                               堀口尚次

 

 たらい回しとは、たらいを足などで回す曲芸転じて、物事を次から次へと送りまわすこと、面倒な案件や関わりたくない案件を、部署間で押し付け合う責任逃れ俗に言う「責任のなすり合い」責任転嫁、その他一部の組織・派閥による権力や利益の独占も例えて呼ぶようになった

 明治、大正時代にかけて隆盛した曲芸の1つ。鉄割(かねわり)熊蔵による鉄割一座による足芸が有名。

 次第に欧米との文化交流が活性化していく中で、海外ではその芸の価値を認められ、優れた芸人は欧米に招聘されてエンターテイナーとして活躍した。かのトーマス・エジソンにも感銘を与えたと言われ、その撮影した映像が残っている。

 医療における「たらい回し」はマスメディアの報道媒体から派生した用語である。報道で見られる用法の多くは、病院の「受け入れ不能」「受け入れ困難」の言い換えという形で用いられており、119番通報した患者の元へ救急車でかけつけた救急隊員が、医療機関に受け入れ可能かを問い合わせ、「受け入れの人手・物資が足りない」などの諸理由により断られること、また医療機関がより高次の別の医療機関に搬送可能かを問い合わせて、同様に断られることなどの事例の呼称である。

 なお「たらい回し」という用語は、患者の実感そのものを表した言葉であり、医療者側が安易に用語の使用を否定すれば「断られた人の心情を理解していないのではないか」と世間から見られるおそれもあり、報道などにおいて、たらい回しという用語そのものを「受け入れ不能」に代替していくかは議論される処である。「受け入れ不能」は、個々の病院の状況を表しているだけで、患者の困窮を表してはいないからである。

 なお、救急受け入れ要請は、救急隊が現場で患者をケアしつつ複数の病院に要請を行うのが常であり、患者の身柄があちこちへ「回されて」いる訳では無い。むしろ、受け入れ困難な病院に無理矢理押し込めば、その後の急変、或いは入院ベッドが無いと言う理由で、結局救急車を使って転院することになり、この場合は実際に患者の身柄が「たらい回し」される事となる。