ホリショウのあれこれ文筆庫

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第111話 市場の失敗

序文・資本主義社会でも市場原理に委ねてはならないものがある。

                               堀口尚次

 

 「市場の失敗」とは、市場メカニズムが働いた結果において、パレート最適〈他の個人の満足を減ずることなしにはいかなる人の満足も増すことができない状態〉ではない状態、つまり経済的な効率性が達成されていない現象を指す。

 ある前提の下では、需要と供給の均衡によりパレート最適な配分を実現し、安定した経済を形成すると考えられている市場メカニズムは、多くの経済学者から支持を得ている方法である。ただし、人々や企業が利潤を最大化しようと利己主義的に行動をしたことで、社会的に望ましくない・最適(パレート最適)ではない結果がもたらされるケースもある。例えば、独占や寡占、失業や公害、貧富や地域格差などの「市場の失敗」が生じる。

 失業、貧困、犯罪率増加、自殺などの社会問題や格差社会の発生は、従来の定義では経済的な「公平性」が達成されていない現象に属し、定義の上からは「市場の失敗」とは別の分類であるとされた。しかし社会的費用の拡張が試みられ失業や貧困などの社会問題が経済成長などに大きく寄与することとなると貧困などの社会問題が「市場の失敗」と見なされるようになっている。

  環境問題として、ダイオキシンアスベストのほか、身近なものとして騒音・大気汚染・水質汚濁・廃棄物の不法投棄などがある。こうした環境問題は、環境を悪化させた当事者が社会全体のコストを負担せずに済むという「外部性」が存在するため、汚染した当事者が「出し得」となり、環境を改善させようとするインセンティブが働きにくい。これは「市場の失敗」の典型例であり、市場に任せていては解決が困難な問題の典型例である。

 政府の役割の一つは、市場メカニズムが働かない分野つまり「市場の失敗」を是正することだ。市場の失敗を補うために公共財を供給したり、独占企業を規制したりする。またもう一つの役割として所得の再分配がある。

 政府は、麻薬の取り締まりや、国防・警察・義務教育・国立病院などの公共サービスの提供・拡充を行う。警察・検察・司法制度は自発的な交換ルールを破ったものに対してペナルティを科すための制度であり、医師の資格免許制度は不適切な医療行為から患者を守るための制度であり、弁護士・税理士・会計士の国家資格制度は情報の非対称性を原因とする被害から人々の守る制度であり、銀行業の開業に対する許可制度は人々の預金の安全性を維持するための制度である。独占企業によって自由な競争が阻害される場合(価格の釣り上げなど)、独占を禁止したり(独占禁止法)、価格の制限を行う。

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