ホリショウのあれこれ文筆庫

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第958話 同じ穴のムジナ

序文・人を化かすタヌキ

                               堀口尚次

 

 ムジナ〈貉、狢〉とは、主にアナグマのことを指す。時代や地方によってはタヌキやハクビシンを指したり、これらの種をはっきり区別することなくまとめて指している場合もある。この混乱は、「マミ」のような地方名を交えて、非常に複雑な様相を呈している。

 ムジナの候補のひとつとされるハクビシンは南方系の動物でありながら、九州に生息しておらず、四国および本州に生息していることや日本における生息が比較的近年まで確認されていなかった事実から帰化動物とされているが、ムジナとしてアナグマやタヌキと混同され、または雷獣〈妖怪〉として認識された、日本の在来種であったという説もある。

 目撃談によると、ムジナの大きさは犬くらいで後ろ足に比べて前足は短く、毛の色は茶色。歳をとると背中に白色〈黒色〉の毛が十字に生え、人を化かせるようになる。また、各地によって多少は異なっており、人の三倍の速差で走ることが出来たり、雌雄の仲が良かったりする。ムジナの化かし方は大きく分けて3つあり、1つ目は田や道を深い川のように思わせる。2つ目は馬糞をまんじゅうに、肥溜めを風呂のように思わせる。3つめは方向感覚をなくすということである。このほかにも人を何人も殺す凶悪なムジナがおり、一部の地域ではそれをオオムジナと呼ぶことがある。

 日本の民話では、ムジナはキツネやタヌキと並び、人を化かす妖怪として描かれることが多い。文献上では『日本書紀』の推古天皇35年の条に「春2月、陸奥国に狢(むじな)有り。人となりて歌う」とあるのが初見とされ、この時代にすでにムジナが人を化かすという観念があったことが示されている。下総国〈現・千葉県、茨城県〉では「かぶきり小僧」といって、ムジナが妙に短い着物を着たおかっぱ頭の小僧に化け、人気のない夜道や山道に出没し「水飲め、茶を飲め」と声をかけるといわれた。

 ことわざ「同じ穴のムジナ」とは、「一見違っているように見えるが、実は同類である」と言うことのたとえ。主に悪い意味で用いられることが多い。迷信では、ムジナが「〈人間を化かすとされる〉タヌキと同じ穴で生活する習性をもつこと」に由来していると思われる。実際にアナグマが掘った巣をタヌキやキツネ、アライグマが共同利用することが確認されている。