序文・超能力者の存在
堀口尚次
念力〈サイコキネシス〉とは、超能力の一つで、意思の力だけで物体を動かす能力のこと。日本では、SFで知られた概念だったが、ユリ・ゲラーが1974年に来日した時に特集番組のテレビカメラの前でスプーン曲げを行い全国に放送されたので、よく知られるようになった。
超能力とは、通常の人間にはできないことを実現できる特殊な能力のこと。今日の科学では合理的に説明できない超自然な能力を指すための名称。
御船(みふね)千鶴子、明治19年生れは、透視能力を持つ超能力者として紹介された女性。千里眼事件は、明治末の社会状況・学術状況を背景として起きた公開実験や真偽論争などの一連の騒動のことである。千里眼・念写の能力を持つと称する御船千鶴子や長尾郁子らが、東京帝国大学の福来友吉や京都帝国大学の今村新吉らの一部の学者と共に巻き起こした。千里眼とは千里先など遠隔地の出来事を感知できる能力または能力を持つ人。透視と呼ばれることもある。
明治43年、熊本の義兄の自宅で福来と今村は義兄の立ち会いのもと、透視実験を行う。人々に背を向け、対象物を手に持って行う千鶴子の透視が不審を招くことに配慮した福来は、背を向けても対象物を手に取らないで透視するようにさせたが、この方法では不的中に終わった。今度は義兄が用意した名刺を茶壷に入れ、それに触れることを許可して透視させると、名刺の文字を言い当てたという。千鶴子の透視能力を確信した福来は、この実験結果を心理学会で発表した。これにより、「透視」という言葉が新聞で大きく取り上げられ、真贋(しんがん)〈本物と偽物〉論争を含め大きな話題となった。千鶴子のもとには透視の依頼が殺到したほか、長尾郁子をはじめとした「千里眼」の持ち主を名乗る人々が続々と現れた。
長尾郁子の念写を非難する記事を見て失望と怒りを感じた千鶴子は、清原に「どこまで研究しても駄目です」と言い放ったとされ、明治44年に重クロム酸カリで服毒自殺を図り、翌日未明に24歳で死亡した。そして長尾郁子の超能力を疑う学者の中から一方的に「透視と念写は全くの詐欺である」旨の見解を報道陣に発表した。因みに千鶴子は、鈴木光司の小説『リング』に登場する超能力者、山村貞子の母親のモデルであると言われた。