序文・癒着の温床
堀口尚次
ビッグモーターの保険金不正請求疑惑に端を発し、様々な問題が浮上しているが、損害保険会社と保険代理店の関係に根本原因が潜んでいるようだ。
利益相反とは、信任を得て職務を行う地位にある人物〈政治家、企業経営者、弁護士、医療関係者、研究者など〉が立場上追求すべき利益・目的〈利害関心〉と、その人物が他にも有している立場や個人としての利益〈利害関心〉とが、競合ないしは相反している状態をいう。
このように利益が衝突している場合、地位が要求する義務を果たすのは難しくなる。利益相反は、そこから非倫理的もしくは不適切な行為が行われなくても存在する。利益相反は、本人やその地位に対する信頼を損なう不適切な様相を引き起こすことがある。一定の利益相反行為は違法なものとして扱われ、法令上、規制対象となる。また、法令上は規制対象となっていない場合でも、倫理上の問題となる場合があり得る。
日本の民法では、同一の法律行為について、本人の代理人がその法律行為の相手方となっていたり〈自己契約〉、代理人が当事者双方の代理人となっているときは〈双方代理〉、代理権が制限されてきた。2017年の改正前民法では自己契約や双方代理の効果は読み取りにくい規定だったが、法改正で自己契約や双方代理による行為を無権代理行為とする判例法理が明文化された。ただし、債務の履行及び本人があらかじめ許諾した行為については、本人の利益は損なわれないため、自己契約や双方代理になっていても有効である。
さらに2017年の改正民法で、代理人と本人との利益が相反する行為〈利益相反行為〉について、代理権を有しない者がした行為とみなす規定が新設された。ただし、本人があらかじめ許諾した行為については無権代理行為にはならない。
損害保険会社は、保険代理店が正規の保険運用を行っているかを監視する立場にあるが、保険代理店から損害保険顧客を紹介してもらう立場にあるところに『利益相反』関係が生まれていると指摘する専門家もいる。
不正行為は法律違反であり、当然ながら行政処分の対象になるが、この『利益相反』関係を温存したままでは、問題解決の根本的解消にはならないだろう。