ホリショウのあれこれ文筆庫

歴史その他、気になった案件を綴ってみました。

第814話 愛知一中予科練総決起事件

序文・戦争と群集心理

                               堀口尚次

 

 『15歳の志願兵』は、NHK名古屋放送局の制作により「終戦特集ドラマ」としてNHK総合テレビの「NHKスペシャル」で2010年8月15日の21時から22時13分に放送されたスペシャルドラマである。キャッチコピーは『友だちがいた。夢があった。でも、戦争があった。』視聴率7.2%。

 太平洋戦争末期に全国屈指の進学校・旧制愛知県第一中学校で起きた「予科練総決起事件」の実話を基に、戦争に飲み込まれていく少年たちの青春と、少年たちを戦場へ送り出さざるを得なかった教師や親たちの苦悩と葛藤を描く。

 原案は、愛知一中に当時在籍した江藤千秋が遺族の証言や日記などの資料を基に著した手記『積乱雲の彼方に 愛知一中予科練総決起事件の記録』。第65回文化庁芸術祭優秀賞〈テレビ部門・ドラマの部〉、第48回ギャラクシー賞選奨受賞作。

 昭和18年、戦況が悪化する中、県下一の進学校で政財界や学者への登竜門だった愛知一中は、海軍当局が指示した47名の割り当てに対し志願者は13名と海軍飛行予科練習生に志願する生徒が少ないという状況にあった。7月5日、配属将校が予科練習生への志願を促す時局講演会が行われ、700人余りの生徒が総決起し、翌日の新聞にはこの事が「愛知一中の快挙」と報じられた

 その後、この報道を見た卒業生で海軍兵学校に在学中だった成瀬謙治〈1945年に回天特別攻撃隊として戦没〉から生徒たちに再考させるよう校長宛てに手紙が届き、家族からの説得を受けた者や身体検査で失格となった者を含め大半の生徒たちが志願を取り下げたが、56名の生徒が入隊し5名が戦没。原案著者の江藤千秋も本作の主人公と同じように愛知一中の卒業生で予科練習生に志願したが視力不足で試験に落ちており、「総決起事件」に遭遇した当事者である。 

私見】戦争に飲み込まれていった少年達の心情はいかほどであったろうか。「お国のため」とはいえ、死を賭してまで駆り立てるものがそこに存在したのだろうか。言論は統制され、個人の意思を重要視する民主主義・自由主義が通用しない時代だ。『勇ましさ』を標榜し教育されると、自国のために戦うことが正統化され、戦死が美化されていたようにも思えてならない。生徒を戦場へ送り出した先生や、子供を戦地へ送った親の心情を慮(おもんばか)らずにはおれない。